「大人になったところで、今の私とあんまり変わらないと思う」
答えはもうずっとひとつしかない。
私は何かを変えられるような人間じゃない。
代り映えのしない毎日。大人になっても、学校とバイトが、働くことに代わるだけ。
働いて、家に帰って、家の手伝いをして、明日も同じ繰り返し。そうやって私の人生はあっという間に終わる。恋愛や結婚には、良いイメージがないから、きっとうまくいかない。
まるで、息絶えはしないけれど、息切れが永遠と続く、緩やかな坂に、終わりはない。
自分の生活はこの先も揺るがず、侘しい。そのことに、なんとなく諦めと覚悟を持ってしまっている。逃げる覚悟はないくせに、しかたのないことだという覚悟はある。
勇気よりも、諦めがある。というよりも、こんな人生を諦めないという勇気がもてない。
どこまでもつまらなくて退屈な私に、森崎くんは言った。
「――強いよな、ほんと」
彼の、あまりにも予想外すぎる言葉に、私は戸惑った。言葉の意味を捉えかねて首を傾げる私に、森崎くんは目を細めた。その目はまるで眩しい対象を目にしたときのようだった。
「やっぱ春日井って強えな」
含みのある言葉の真意は、やっぱり掴めそうにない。
「それってどういう⋯⋯」
《今夜がピークを迎えるみずがめ座流星群とは――》
その真意を問う前に、テレビから聞こえてきた声に、私と森崎くんの意識は、そちらへと引っ張られる。
《こちらはみずがめ座流星群を撮影した映像です》
画面では流れ星を捉えた映像を、さらに拡大してスローモーションを加え、流れ星に赤丸を添えて、わかりやすくしている。あまりにもわかりやすい。
わかりやすいけれど、森崎くんのお兄さんの動画より、なんというか、感動しない。ただ、流れ星が流れた、という事実を見ているだけだ。
「なんか、テレビで見ると萎えるな」
「うん。こんな平凡な流れ星あんまない」
「な」
そんな微妙な反応の私たちとは違い、画面の中の人たちは「わあ」だの「すごい」だのやけに大袈裟に感動している。
《滝口アナ、願い事3回言えましたか?》
《えっ、あ、はいっ! ばっちりです》
テレビ内で突然始まった身内の茶番を、私と森崎くんは冷めた目で見る。
どうでもいい時間だ。
そんなことを思っていると、テレビの画面に向かって石田さんが言った。
「んなもん意味ねえべな」
私と森崎くんは、思わず目を合わせて、石田さんに共感するように笑った。
