「昨日流星群だったらしいよ」
小分けのアーモンドフィッシュを食べながら、森崎くんが言った。私は家から持ってきた手作りの塩むすびをかじりながら「へえ」と相槌を打つ。
「ていうか、そんなのうちに売ってるんだね」
「うん。酒売り場にあった」
「そんなとこまで見てるの?」
「まあ、背伸びしたい時期なんで。なあ、てか、知ってた? 流星群」
今日も〈憩いの場〉の利用客は、石田さんと森崎くんと、私だけ。大音量のテレビと、私たちの会話と、ときおり、石田さんの独り言がその空間を彩る。
「知らなかった。森崎くんは見たの?」
「いや、こっちは雲多くて見れなかったっぽいよ。長野ではよく見えたらしいけど」
「長野?」
「そ。長野県」
そう言って森崎くんはスマホの電源を入れてから、その画面を私に見せる。夜空が映し出された動画だった。
「あ、すごい」
変わらない夜空の景色に、時折、光が斜めに駆け抜けていく。一瞬の出来事が3回ほど繰り返されたところで動画は終わった。
それがホーム画面に戻った束の間、電話のマークに、ものすごい通知の数が赤丸で表示されているのを見てしまった。森崎くんはそれらに一切の感情を見せることなく、再びスマホの電源を落とした。
「俺の兄貴が、昨日の夜に長野まで車飛ばして見てきたんだって。思い立ったが吉日とか言ってたけど、大学生って暇そうっていうか、自由だよな」
森崎くんのお兄さんは、東京でひとり暮らしをしている大学2年生だという。たびたび森崎くんの口からお兄さんの話が出るけれど、いつも自由奔放で突拍子もないことをあっさりとやってのけるような、面白そうな人だった。
森崎くんとは似ているようで、どこか違う。
刺激の強い炭酸水の蓋を開けながら、森崎くんは呟いた。
「⋯⋯俺も早く大人になりてー」
願望を口にしながらも、その表情はなぜか諦めに近い。諦観にも似た、どこか大人びた顔だった。その感情を、私も少し知っている気がした。
