隕石の落ちなかった夏




「私、本物の日の出なんて見たことないや。日の出って理科でやった東からのぼるやつだよね? 初日の出って言ったら勝手に山で見るイメージだった」
「俺も日の出は海で見たことないけど、西に沈む方なら見たことある。あっという間に水平線に消えてったけど」
「それもこのへんで見れるの?」
「うーん、どうだろ。俺が日の入り見たのはハワイだったから」
「ハワイって、あの、ハワイ?」
「そ。母親が周りに自慢するためだけに行くハワイ」


目が点になる私と相反して、森崎くんの口調は皮肉に満ちていた。

けれど、私はそのことにも反応できないくらい、ぽかんとしてしまっていた。

次元が違った。真っ先にそんなことが思い浮かんだ。

私が知らない世界を、同じ年の彼は知っている。同じ高校生で、同じような場所に住んでいるのに、見る世界も触れる世界も、こんなにも違う。


《はじめての海はどうですか?》


大音量のテレビの音が、私たちのところまでよく聞こえてくる。反射的に視線がテレビに向く。画面の中には、水着姿の小さな男の子がマイクを向けられていた。彼は、満面の笑みで答えた。


《たのしいー!》


微笑ましいほどに、ありきたりな感想。


(ああ、そうだ)


確かに森崎くんは次元が違う。でも、私だって、ある意味で次元が違うのだ。

私はいつだって、周りとは違っていた。みんなが知っていることを、私は知らない。


(そうだった)


少し考えてみれば、その当たり前のことに我を取り戻した。心の奥底に、何かが沈んでいくような感覚を、久しぶりに感じた。


――ありきたりの中に、私は該当しない。


「⋯⋯私、海、行ったことないんだよね」


どうして、それを森崎くんの前で口にしたのか、私にもわからなかった。気づけば、私は声に出していたのだ。普段なら絶対に口にしないであろう言葉を、なぜか、今、この瞬間に。