「え、君、男子なの? めっちゃ可愛いじゃん」
「ああ、だから調理部とか入ってんだ?」
「いえ、べつにそういうわけでは……」
いくら僕が、ちゃんとした理由――小さい頃から料理が好きで、伝統のある調理部のあるこの高校に憧れていたこと――を説明しようにも、時折、こういう風に僕の中性的な容姿をネタにしたり、勝手に納得されたりしてしまうことがたまにあった。特にこういう、外部の人が入って来る文化祭とかでは言われることも多かった。
「ネコくん、気にすることないよ。ネコくんは誰よりも料理上手で一生懸命なだから」
同じ部の女子たちがそうフォローしてはくれるし、気にしないようにしているけれど、それでも、小さな棘のように、言葉が胸に刺さってじわじわ痛む。
(――僕が僕のまま、僕の好きなことをするのって、そんなにおかしいことなのかな)
やっぱり、大人しく男子が多い部活に変更した方がいいのかな……そんなことすら脳裏に過ぎり始めていた時、一人の僕くらいの背丈の中学生らしい子がクレープ屋を不安そうな顔で覗き込んでいた。
おずおずとしていて遠慮がちにしていたので、「どうぞ。美味しいよ」と微笑みかけると、彼はぱぁっと顔を輝かせ、「これとこれ下さい!」と、注文をしてくれた。
そして僕が作ったクレープ――ツナサラダクレープと、チョコバナナクレープだ――を二つ手にし、ぺろりと平らげてしまったのだ。
「このクレープ、どっちもマジ美味いっす!」
「そう? ありがと」
「これ、お兄さんが作ったんすか? すげぇ!」
嬉しそうに顔をほころばせて笑ったその顔は、いままで僕が作ってきた料理を食べてくれた誰よりもおいしいと言っている顔で、嬉しさで胸が高鳴るのを感じた。
でも彼は、すぐにまたしょんぼりとした顔をする。
「どうしたの?」
「俺、この学校入りたいんすけど、偏差値微妙で……」
「そっかぁ……じゃあさ、また僕と文化祭で会おうって約束してみない? 目標があると頑張れるかもよ」
半分冗談の励ましのつもりで言った僕の言葉に、その子は嬉しそうにうなずき、突然、ガシッと手を握ってきてこう言った。
「はい! 頑張ってこの高校入ります! 絶対会いに行くんで、待っててください! 一緒にクレープとか作りたいです!」
男子中学生ははきはきと愛想よく答え、にこりと垂れている目を細めた甘い表情でうなずく。いきなり手を握られたのはびっくりしたけれど、可愛らしい子だ。こういう後輩が出来たならきっと部活も学校も楽しいだろうな――そんなことを考えながら、僕はその子に手を振った。
(もしまた彼に会えるんだったら、それまで部活頑張ってみようかな)
待っててほしいと言われたからなのかわからないけれど、僕はもう部活を辞めようとは考えていなかった。口約束ともつかない約束を言い交わして、それきりその中学生と会うことはないと思ってた。あれはただ偶然の出会いだったんだろうな、と。
でもまさか一年後、事態が思ってもいない方向に転がるなんて、その時誰が思っていただろう――――
「ああ、だから調理部とか入ってんだ?」
「いえ、べつにそういうわけでは……」
いくら僕が、ちゃんとした理由――小さい頃から料理が好きで、伝統のある調理部のあるこの高校に憧れていたこと――を説明しようにも、時折、こういう風に僕の中性的な容姿をネタにしたり、勝手に納得されたりしてしまうことがたまにあった。特にこういう、外部の人が入って来る文化祭とかでは言われることも多かった。
「ネコくん、気にすることないよ。ネコくんは誰よりも料理上手で一生懸命なだから」
同じ部の女子たちがそうフォローしてはくれるし、気にしないようにしているけれど、それでも、小さな棘のように、言葉が胸に刺さってじわじわ痛む。
(――僕が僕のまま、僕の好きなことをするのって、そんなにおかしいことなのかな)
やっぱり、大人しく男子が多い部活に変更した方がいいのかな……そんなことすら脳裏に過ぎり始めていた時、一人の僕くらいの背丈の中学生らしい子がクレープ屋を不安そうな顔で覗き込んでいた。
おずおずとしていて遠慮がちにしていたので、「どうぞ。美味しいよ」と微笑みかけると、彼はぱぁっと顔を輝かせ、「これとこれ下さい!」と、注文をしてくれた。
そして僕が作ったクレープ――ツナサラダクレープと、チョコバナナクレープだ――を二つ手にし、ぺろりと平らげてしまったのだ。
「このクレープ、どっちもマジ美味いっす!」
「そう? ありがと」
「これ、お兄さんが作ったんすか? すげぇ!」
嬉しそうに顔をほころばせて笑ったその顔は、いままで僕が作ってきた料理を食べてくれた誰よりもおいしいと言っている顔で、嬉しさで胸が高鳴るのを感じた。
でも彼は、すぐにまたしょんぼりとした顔をする。
「どうしたの?」
「俺、この学校入りたいんすけど、偏差値微妙で……」
「そっかぁ……じゃあさ、また僕と文化祭で会おうって約束してみない? 目標があると頑張れるかもよ」
半分冗談の励ましのつもりで言った僕の言葉に、その子は嬉しそうにうなずき、突然、ガシッと手を握ってきてこう言った。
「はい! 頑張ってこの高校入ります! 絶対会いに行くんで、待っててください! 一緒にクレープとか作りたいです!」
男子中学生ははきはきと愛想よく答え、にこりと垂れている目を細めた甘い表情でうなずく。いきなり手を握られたのはびっくりしたけれど、可愛らしい子だ。こういう後輩が出来たならきっと部活も学校も楽しいだろうな――そんなことを考えながら、僕はその子に手を振った。
(もしまた彼に会えるんだったら、それまで部活頑張ってみようかな)
待っててほしいと言われたからなのかわからないけれど、僕はもう部活を辞めようとは考えていなかった。口約束ともつかない約束を言い交わして、それきりその中学生と会うことはないと思ってた。あれはただ偶然の出会いだったんだろうな、と。
でもまさか一年後、事態が思ってもいない方向に転がるなんて、その時誰が思っていただろう――――



