「お父さんてさぁ、猫とか犬とか嫌いなの?」
「……お母さんは?」
晩ご飯の時間。お父さんとお母さんに、お兄ちゃんがたくさん質問している。「何で?」ってお母さんが聞いても、「いや別に?」だって。……絶対バレてるだろうなと思いながら、わたしは無視してテレビを見ているふりをする。

「ま、お母さんは犬とか猫とか……嫌いよ?」
「えっ……何で?」
「色々大変じゃない。掃除したり、散歩したり……お世話するのは無理ね」
「まぁ……そうだけど」
「毛だって沢山落ちるしね。アレルギーになっちゃうよ」
「……」

後先考えずに、とにかくお父さんとお母さんにアピールをしているらしい。お母さんから言われても、何一つ言い返すことができていない。

(……それだと逆効果だよね……)

わたしよりも1歳年上なのに、なんだか残念だなぁー……と思う。

お兄ちゃんとはちがって、わたしには考えがあった。とにかくわたしは猫ちゃんの姿を見ていない。きっとお兄ちゃんも。先ずは……どんな猫ちゃんなのか、見てみたいと思っていた。

「ごちそうさまー」
手を合わせ、わたしはいつも通りの行動を取るようにした。変なところをお母さんとお父さんに見せてはいけない。お兄ちゃんは下手。「何かあるな」って絶対に分かるような行動しかしない。いつもそう。

(先ずは、顔見てみたいなぁ……)

1週間、毎日カーテンの内側から猫ちゃんを探すことに決めた。お兄ちゃんが言うには、夕方もいるらしいけど……とりあえず夜の8時頃、毎日チェックすることにして、もしダメなら、夕方も考えようと思う。

(……ダメだ。今日もいない……)

わたしは晩ご飯の時は、いつも通り変な行動を取らないようにして、夜の8時前になると、カーテンの内側に隠れる生活を毎日続けた。……でも全然猫ちゃんは現れない。

(……あっ! ……来たっ!)

作戦を開始してから5日目。この前の場所にまた猫ちゃんが姿を見せた。暗闇の中をゆっくりと動きながら……色々なところの匂いをチェックしている。

(可愛いなぁー……)
(……こっち、来ないかなぁ)

隣の家とは5メートルくらい離れている。シルエットしか分からない。もうちょっと近づいてきてくれれば、色も分かるのに……ともやもやした気持ちになる。

(来い……来い……)

1歩。また1歩。フラフラと歩きながらも、ちょっとずつ近づいてくる。

(んー……もうちょっと……)

顔や色が分かるかどうかの、微妙な距離。わたしは玄関から外に出てみることにした。サンダルを履いて、ソロリ……と足音を立てないようにドアを開ける。

ガラララ……

「ひらや」なので、横に開けるドア。レールの音が夜の玄関に響き渡る。

(うわぁ……)

わたしの予感通り、猫ちゃんはすでに姿を消していた。きっとわたしがドアを開けた音にびっくりして、逃げてしまったんだと思う。がっくりと肩を落として、ドアをまた閉めた。

(……はぁ)
(どうしよう。ちょっと考えないとなぁ……)

せっかく近づいてくれても、毎回こんな音を出していては……絶対に逃げられてしまう。一体どうしたら良いんだろう?とわたしは途方にくれた。