そんなこんなで、全然勉強に身が入らず、俺は人生で初めて赤点を取ることになる。
 中間テストが終わり、部活が再開したというのに、俺はバレーボールを触ることさえ許されない。教室で自席に着いた俺の前に、城戸さんが渋面を作って立っていた。
「まったく……二人して赤点を取るなんて」
 そう。俺の隣には大志がでかい体を申し訳なさそうに縮めて座っている。
「すんませんした!」
 大志が勢いよく頭を下げて机に顔面をぶつける。
「大丈夫か? すごい音したぞ」
 大志が顔を上げると、額が赤くなっていた。
「大丈夫っす」
 城戸さんが視線を俺に戻す。
「青島はともかく、優秀な那月がいったいどうしたんだ?」
 城戸さんにも大志にも弁解のしようがなくて、俺はただ頭を下げるしかなかった。
「申し訳ありませんでした」
「しょうがないなあ」
 城戸さんが片眉を下げて続けて言う。
「那月のことだから、『どうせ出番ないだろう』とか思ってるかもしれないけど、大きな間違えだぞ。確かに宇野はセンスの塊だけど、未だにスタミナに難がある。それにな、誰にだってケガのリスクはあるだろう。おまえがアップゾーンにいてくれるだけで、俺たちは安心してプレーができるんだよ」
 目の奥が熱くなり、鼻の奥がツンと痛む。鼻水が出そうになって、慌ててはなをすすった。全身が小刻みに震え出し、拳を握り締めてじっと耐えた。
(あ、だめだ。泣くかも)
 俺は泣き顔を見られたくなくて、立ち上がった。椅子が音を立てて倒れる。窓を向いて、涙が引くまで待つ。
「那月さん」
 大志の声がすぐ後ろから聞こえた。
 俺は手の甲で涙をぬぐって二人に顔を向ける。
 聞かれてないのに、語らずにはいられなくて、ぽつりぽつりと話し始めた。
「俺、中学最後の試合で、スパイカーともめたんです。そいつ、とんでもなく自分勝手なヤツで、試合中に『トスは全部俺に上げろ』って言ってきたんです。『俺が全部決めてやるって』」
「うわ、最悪」
 大志が小声で言った。
「そんで、全部そいつに上げたんですか?」
 俺は首を振った。
「言うこと聞いてたら負けると思ったんだ。でも、他の人に上げたトスも横取りして自分で打とうとするから、ことごとくブロックにつかまってました」
「そりゃそうだ」
 城戸さんが同意してくれた。
「挙句の果てに、練習したことないのにクイックをやろうとしたんですけど、うまくいくはずなくて、全部、俺のせいにされたんです。」