――一時間前。
 全体練習が終わった体育館で、俺たちは居残り練習をしていた。いつもは二人だけで練習をしているが、明日から試験前で部活が休みになるため、キャプテンの城戸(きど)さんが練習に付き合ってくれている。
「もうこんな時間か。次がラストにするぞ」
 城戸さんがネット際にいる俺と、向こう側にいる大志に声をかけた。
「よろしくお願いします!」
 大志が元気よく返事をする。
 城戸さんの身長は176センチで、スパイカーの中では低いほうだ。
 俺の身長は164センチで、バレーボール部の中ではもちろん小さい。身長が理由ではないけれど、中学からセッターをしている。
 一方、高校に入ってからバレーボールを始めた大志の身長は188センチで、部員の中で最も背が高い。大志はブロッカーとして戦力になりそうだが、バレー未経験のため、レシーブにまだまだ課題がある。来月に迫ったインハイ予選に備え、レシーブを特訓中だ。
 城戸さんが一旦後ろに下がった。
「那月!」
「はい!」
 山なりのボールが頭上に来る。俺はオーバーハンドトスを上げた。
 城戸さんがネット際で踏み込んで跳躍する。右腕が大きくしなる。ライトへのクロス打ちだ。
 大志は反応できなかった。ボールがバックゾーンに落ち、エンドラインを越えて行った。
 城戸さんが俺を振り返る。
「今のトス、良かったぞ」
「ありがとうございます」
 城戸さんは大志へのフォローも忘れなかった。
「青島は、部活が再開したら、スライディングレシーブの練習を重点的にやろうな」
「うっ……はい」
 大志がしぶしぶ頷いた。
(気持ちはわかるぞう。きついもんなあ)
「悪いが、片付け頼んでいいか? 顧問に呼ばれてるんだ」
「お疲れさまでした」
 俺たちの声が重なった。
 体育館を出て行く城戸さんを見送り、後片付けを開始する。
「那月さん、明日から勉強教えてくれるんすよね?」
 ネットをたたみ終えた時、大志が唐突に切り出した。