土曜日。俺たちは無事に追試に合格し、他のバレーボール部員と一緒にバスの中にいた。
 俺は窓際の席に座り、左隣には当然のように大志が座っている。
 これから県ベスト4常連の強豪校との練習試合だというのに、大志はなぜか上機嫌だった。
「土曜日も那月さんと一緒にいられて嬉しいです」
 一応他の部員に気を遣っているらしく、小声で大志が言う。大志が俺の耳に口を寄せてきた。
「なにげに初デートじゃないっすか?」
(わーっ! 顔近いー! 試合前に俺の体温を上昇させるなよ!)
「どこが? 学校のバスで部活の練習試合だぞ」
「もう! ツンツンしちゃって! 那月さんも嬉しいくせに。そこがかわいいんですけど」
 驚き過ぎて俺の眼が点になる。
(か、かわいい? かわいいって言った?)
 俺はわざとふてくされた顔をして頬杖をつき、窓に顔を向ける。
 大志が俺の左手を握ってきた。
「おい、みんなにばれたら……」
 俺が慌てて小声で言うと、大志も小声で返してきた。
「これくらい大丈夫っすよ。誰も見てません」
 大志の手が予想以上に温かくて熱いくらいで、大志も俺と一緒にいるだけでドキドキしてくれているのがわかった。
 バスがカーブにさしかかり、車体が傾く。
「あっ」
 重心が左に寄り、俺の体が大志にもたれかかった拍子にぎゅっと抱き締められた。
「!」
 不意打ちに心臓が大きく跳ねる。
(おいー!)
 恨みがましく大志にきつい視線を送ると、したり顔をしてきた。
 俺は心の中で溜息をつく。大志の言う通り、部活の練習試合とはいえ土曜日に大志と一緒にいられるのも、こうして手をつなぐこともぎゅっとされることも、まんざらでもない。
 されてばっかりだと悔しいから、俺は大志の手を握り返した。
「那月さーん」
 横で大志が感激しているのがわかる。
 俺たちの青春を乗せて、バスは道路を進んでいく。

                       了