「俺、那月さんが近くにいるだけで、いつも、こんなになるんです。好きな人と、キ……キスしたのに、意識してないわけ、ないじゃないっすか」
 頭の後ろに手を回され、もう片方の腕で抱き締められる。
 俺の緊張は頂点を通り越して、振り切れてしまった。もう、あれだ。パニックだ。
(好き? 今、好きって言ったか? 大志が俺を好き!? どういうあれだ!?)
「俺とキスした時、嫌でしたか?」
 普段では考えられないほど真面目な声で、大志は静かに問う。だから俺も、本音で話すしかないと思った。
「嫌じゃない。嫌じゃなかったから、今、こんなに困ってるんだ」
 大志が腕を緩める。大志の本気の顔が目の前に現れた。
「俺、那月さんが好きです。俺と付き合うこと、真剣に考えてほしいです。返事は、いつでもいいですから」
 はぐらかしてはいけないことくらい、俺でも理解できた。
「いつまでに返事すればいい?」
「那月さんが卒業するまでには、返事ほしいです」
「わかった。考えとく」
 大志は少しほっとした様子で俺の手を取り、指をからめてきた。
(なんだ? ムード作ろうとしてるのか?)
 俺の予想は的中したようで、大志は目をつぶって顔を近付けてきた。俺は慌てて空いている手で大志の口をふさいだ。
「調子に乗るなよ! まだ返事してねえのに、二度目はない!」
「すんません。調子乗りました」
 大志はでかい図体を丸めて反省の意を示す。大型犬がしゅんとしているみたいでほほえましい。
(大志は犬に例えるなら『柴犬』かな。でかい犬種じゃないけど、かわいいもんなあ)
 愛しさが込み上げてくる。俺は床に膝をついて身を乗り出し、大志の額にキスをした。
「那月さん! 大好きです!!」
 またしても抱き着いてきたので、俺は大志の頭を撫ででやった。
「もうわかったから、勉強すんぞ」
 おざなりな返事にも多分に甘さが含まれているのが、自分でもわかった。