私も婚約破棄している場に偶然通りかかり遠目から見ていたんだけど……婚約破棄されたての元婚約者の悪役令嬢だって、颯爽と現れた隣国の王太子があれよあれよという間に連れ去ってしまった。

 つまり、ここに居る人は運命の人にも、幼い頃から自分のことを好きだった元婚約者にも去られた……とても可哀想な人なのである。不憫過ぎて、心の許容量オーバー気味。

 ふと視線を上げれば、失恋もしていないはずの私の目に夕焼け空が目に染みる。

 もうすぐ、陽が沈んでしまう。

 なんだか風景も悲しそうなのに、それを見ている彼はより悲しくならないだろうか。

 大騒ぎにはなったものの、その後何ごともなかったかのようにその日の政務を終えた王子様が、失恋したショックで海の見える城壁の上に一人で現れることは、初日にはもう城中噂がまわり皆知っていた。

 ロシュ殿下は出来るだけ人目を避けたいと思うんだろうけど、彼の身分も容姿もあまりに目立ちすぎる。

 そんなこんなで私と同じように城に仕える面々は、この時間のここには絶対に近寄らない。