異世界の血が混じる彼女と結婚すれば、またエトランド王家は永く栄えるだろうと父は考えていたようだった。そういう言い伝えがあるのだ。異世界に通ずる者と縁づけば、王家は栄えると。

 たとえそうだとしても、俺も自分を好きになれない別の男が好きだと泣く女に無理やり結婚してもらうほどには、プライドは捨てきれなかった。

 だがしかし、これからどうするべきか。

 年齢的にそろそろだろうと準備していた結婚も相手を失い白紙に戻り、父母は腫れ物を触るような対応。

 そんな自分の今後を静かに考えたくて、城壁の上で夕陽を見ていたら、失恋した心の傷を癒しているのだろうと噂されているようだ。

 失恋とは……恋を失うことだが、実は俺は人生の中恋をしたことはない。

 夕食前に城壁で過ごすようになって何日目かで愛らしいメイド服の女が、俺に話しかけて来た。くるくるとした金茶色の巻き髪も、まるで人形のようだった。

 王族へ話しかければ運がなかった場合、不敬罪で罰せられる可能性もあるというのに、豪気なものだ。だが、怯えられるよりよっぽど良い。最初の印象としては、好ましかった。