ほんの十分前まで、二人の女性に捨てられた不憫な王子様だったはずなのに。

 今こうして楽しそうに微笑んだ王子様は、そもそも私の慰めなんて必要なかったみたい……。



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 王位を継ぐ予定の俺と公爵令嬢ジェシカの二人は十年ほど、お似合いの婚約者同士と周囲から目され割と上手くやっていたと思う。

 ジェシカが持つ能力は高くて王妃としての役目を果たすのに申し分なく、人柄も温厚で誠実だ。

 俺たちは熱烈な恋人同士にはならないだろうが、穏やかな生活を営む夫婦として上手くやっていくのだろうとそう長い間思っていた。

 そろそろ結婚をと準備していた矢先に、ジェシカが「ある人に恋をしたから、婚約解消をしたい」と、泣きながら言い出すまでは。

「お願い。ロシュ……私と婚約解消して欲しいの。私、貴方のこと好きだと思ってた……でも、違ったわ。それは、恋ではなかった。あの人が好きなの。諦められない」