あ。いけない。ここ異世界だから、ロバの耳ってわかんなかったかも。私が成人になってから前世の記憶を取り戻したのと、結構なんでも通じてしまうので、そういう言い回しを使ってしまいがち。

 まぁ良いや。ロシュ殿下だって名前も知らないモブで変なことを言う女なんて気にしまい。

 ロシュ殿下はどんとこいと言わんばかりに胸を叩いた私を振り返りそして、夕焼けに視線を戻し、それを何故か三回繰り返した。

 これっていわゆる、三度見じゃない? 私……もう彼にとっては初見ではないはずだけど。

 え。何か、他のことでも悩んでいるのかな……いいえ。彼は失恋直後という異常な精神状態にあるのだから、慰め係の私がわかってあげなくては。

 悩みは吐き出せば、多少は楽になるものである。私もメイド長の無茶振りの愚痴を同僚たちと吐き出し合うとだいぶ楽になる。無理なことばかり要求してくる癖に出来ないと怒るものだから、本当に嫌になる。

 別に誰かの不幸を面白がったりするようなゲスでもないので、存分に心の内を言って欲しい。