疎らに屯するヒッピー族を横切り、指定場所に到着するウェイキン。
「……」
『着いた?』
「見て分かンねぇか。……着いたよ」
 壁に凭れて調息しながら、ウェイキンはぶっきらぼうに吐き捨てる。
『オーケー。そっちに行くわ』
「……ッ」
 ある違和感が付き纏っていた。ビーカーは後方支援型のハッカーだ。
 自分の現在地を知り、窮地を的確に言い当てる。しかしどうやって?
「……」
 見渡した限り、ドローンの様な飛行物体は一機も見当たらなかった。
 信号機? 国交省や防衛相辺りにでもハッキングしてカメラ監視中?
「……」
 得体の知れない未知の不安と緊張がウェイキンの背筋を凍り付かせる。
 何しろ謎のハッカー女、ビーカーと直接対面するのは今回が初めてだ。
「……まだか」
 追っ手の影に気を配りながら要人を待つ――。神経の磨り減る作業だ。
「……?」
 やや遅れ、黒い傘を差した小柄な女がこちらに歩いてくるのが見えた。
 カパ――ッ。折り畳み端末で地図を確認……赤い丸印が接近してくる。
「……まさか……」
 ヘロインを搭載したジュラルミンケースの現保持者はビーカーなのか?
 傘の生地で顔は見えないが、レディースジャケットを羽織った軽装だ。
 銀色のマイクロパンツ姿。肉感的な太腿をニーハイで包み込んでいる。
 華奢な小娘と聞いていたが……白人女性は成長が早いのかもしれない。
「おぃ……アレ、お前か?」
『……』
 ガ―。ノイズ音。期待していた、あのキビキビとした女の返事はない。
「……」
 チャキ――。
 銃把を後ろ手に握り締めながら……ウェイキンは慎重に距離を詰める。
 十、五、三m――。互いの距離が近づき、擦れ違おうとしたその刹那。
『やっと会えた♪』
「――ッ!」
 バサァッ。不意に飛び込んできた傘の小間が、視界一面を覆い隠した。