Trap girl



 パパパパ……。静謐に満ちた薄闇で、橙色の火炎が乱れ咲いた。
 現在地より左斜め前――公園内のやや奥まった闇間が明滅する。
「……ッ」
 反射的に地を蹴りつけ、ウェイキンは横っ飛びに身を投げ出す。
 チュィィ―ン。
 殺意を帯びた鉛の飛礫が、空になった路面を忽ち黒焦げにした。
「……ッ」
 ジャキッ――。
 ピスポケットから掴んだ銃を構え、寝転がったまま腕を伸ばす。
「……(やられた)!」
 薄闇に慣れた夜眼が刹那のフラッシュで麻痺し、周囲が眩しい。
『逃げてっ。相手はフル装備よっ』
「? チッ」
 ヘッドギア・バイザー・アーマー・プロテクター……フル装備。
 当然、ウェイキンは暗視スコープやサーモセンサーも想定する。
 市民警察の武装とは比較にならない。マフィア……いや、……。
「ッ……軍隊かよ」
 反射的に路面をゴロゴロと横転しながら建造物の陰に身を隠す。
 パパパパ……チュィン。再度の機銃掃射が黒い路上を焦がした。
「……ぜぇ……」
 ザァぁぁぁ――……。
 静謐に包まれた闇間を、インカムから漏れるノイズ音が満たす。
「……」
 暗赤色に仄光る数器のレーザー光が虚空と路上を往来している。
 一瞬、追撃が止まったが……時間の問題であろう事は明白――。
 ピッ、ガー……。
 束の間の静寂を、インカムから届く女の逼迫した声がやぶった。
『ウェイキン無事? まだ生きてるなら』
「ッ!」
 ガシャ。――ガチン。
 即座に身を起こしながら、片手を伸ばしてトリガーを引っ張る。
『ウォールストリート二十四番街っ』
「了解ッ」
 ――ドウ、ドウッ! ドウッ!!
 薄闇に鈍く光るバレルの銃口から真っ赤な火炎が噴き飛沫いた。
 牽制射撃で追撃者の動きを止め、死角の界隈へと姿を眩ませる。