深夜の繁華街――。
ドム、ドム、ドム、ドム♪
自由参加型の社交ダンス。ディスコ・サウンドがご機嫌なビートを刻む。
ネオン煌めくミッドウェイ・タウンのナイトクラブは盛況を極めていた。
「わぁ――っ。」
そこかしこで歓声が沸き立つ。客席の丸テーブル傍で雑談に興ずる観衆。
「イッツ・ショウ・タイム」
間接照明が燦然と照らすステージ上ではダンスショーが上演されている。
ドッ、ドッ、ドッ――。アイドリングの排気口が重低音を鳴らせている。
喧騒からやや遠いホールの裏側に、一台の黒塗りベンツが停車していた。
ガチャッ。乾いた音がして、オートロック式のドアが一斉に施錠される。
中には二体の影。助手席側に拘束されたウェイキンは恐慌状態にあった。
「……」
「ブツが盗まれた。取引の制限時間までに奪い返してこい」
黒いサングラスをかけた厳つい体格の黒人が、野太い低声で威圧を醸す。
「取引の時刻は現深夜――。持って来ないとどうなるか――」
アルマーニだろうか。ブランド物と思しき黒スーツの襟元をはだけると、ショルダーホルスターに収納された拳銃の銃把(グリップ)をやんわりと見せつける。
「掟に背けば、ウェイキン……聡明なお前なら、解るよな?」
「ボス……そ、そんな突然……それに何で俺なんスか……?」
歯列をカチカチ細かく打ち鳴らし、ボス直々の勅命に臆するウェイキン。
「俺の他にだって、……その、……優秀な奴等……幾らでも」
泣き言を漏らすウェイキンの襟首が、ガッ、と強烈な力で引っ掴まれた。
暫しの沈黙を保ったまま、黒人は厳めしい顔を徐に近づけ、大口を開く。
「――ボスの命令に従うのが部下の務めだろうがッ!!」
「ぐッ」
ドカ――ッ。
ウェイキンの頭をダッシュボードに叩きつけると、しかめっ面を浮かべた黒人は徐にギッと皮張りのシートに凭れ掛かる。
「……明け方まで待つ」
「……ッ」
制限時刻が早朝へと緩和。ボスの苦肉の温情もウェイキンには大同小異。
「な、……なんで俺が……」
怯える請負人を横目でジロリと睨み据え、ボスは苦い表情で吐き捨てた。
「――明け方の五時までだ。それまでにブツを持って現地到着だ。いいな」
「……お、オゥケィ、ボス」
有無を言わせぬ理不尽な要請に、声を震わせ、悄然たる面持ちで応じる。

