その後は昼過ぎに起きて、たまたま家にいたおばさんと一緒に遅めのお昼ご飯を食べた。十六時くらいまで勉強をしていたら竹内くんから電話がかかってきて、「俺も投稿終わった!」と嬉しそうに報告されたから、お互いに「お疲れ」って言い合って少し話した。
「そういえば、灰崎先輩のファッションショー明日じゃん? 応援の電話とかしないの?」
「ああ……うん、そうだよね」
「あ、そんでさ、今度こそ告っちゃいなって。不安なのはわかるけど、でも成功したら楽しいぞー」
竹内くんはそう言って、ぼくと灰崎先輩が付き合った後に行くべきデートスポットについて熱心に語ってくれた。ぼくはかなり反応に困ったけど、竹内くんの頭の中ですっかり付き合ったことになっている自分たちの話を聞くのが楽しくて、上手く調子を合わせながら最後まで付き合って電話を切った。
ふう、と息をつきながら、ぼくは通話画面を消そうとスマートフォンを見る。そして、小説投稿サイトから通知がきていることに気がついて、えっと大きく声を上げて驚いた。
通知の内容は、ぼくがさっき投稿したばかりの作品に、新しいコメントがついたことを伝えていた。竹下くんはついさっきまで自分の原稿をやっていたはずだから、今回コメントをくれたのは別の人のはずだ。
誰だろう、と気になって、ぼくは急いた気持ちでスマートフォンを操作し、サイトを開く。そのまますぐに通知欄にとんで、コメントをくれた人の名前とアイコンを確認して……息をのむ。
【M:主人公の気持ちがよく伝わってきて面白かったです。この小説のヒーローは多分、ヒロインが思うよりもずっと前から、彼女のことが好きだったんじゃないかな。】
【M:一生けん命アピールしてたのとか、上手く伝わっていなかったのは悲しいけど、ヒーローはきっと主人公のそんなところも大好きなんだろうなって思いました。】
その人は、作品の全話に「いいね」をつけてくれていた。アイコンは綺麗な夕焼け――柔らかいオレンジの空に、同じような感じの色味に染まった猫の形の雲が映っている。
どきん、と大きく心臓が跳ねた後、ぼくの鼓動は、そのままどんどん加速した。だってこの雲は、ぼくが見つけた雲だ。あの日、海の家で、ぼくが見つけて、先輩に伝えて……。
――先輩って猫みたいですよね。
――そう?
――はい。意外とイタズラ好きなところか。
――へえ。
――他の人からも言われません?
――言われないよ。俺がこんなにはしゃいだり喋ったりするの、ニレといる時だけだもん。
「……っ」
ぼくは気づけば、座っていたベッドから勢いよく立ち上がっていた。部屋の隅に掛けてある上着を手に取って、雑に羽織りながらダイニングとの仕切りを開ける。
「おばさん、ちょっと外出てくる!」
「わ、びっくりした。え? 今から? 寒いじゃない」
「ちょっとだから大丈夫!」
「夕飯は?」
「食べる!」
大きな声で答えながら、ぼくはスマートフォンに登録してある先輩の番号に電話をかけた。同居が決まった時におばさん経由で登録したっきり、全然使ってなかった番号だ。
一緒に住んでいる間は、電話をかけたりメッセージを送り合ったりする必要なんて全然なかった。放課後に用事がある時は、先輩がいつも昇降口で待ってくれていたし、なにか話したいことがある時は、この家でいくらでも話すことができた。
先輩が大阪に行ってしまってからは、勇気が出なくてぼくからはかけられなかった。先輩も多分、ぼくの番号は知っているはずなのだけど、それでも電話がかかってくることはなくて――それがある意味、一つの答えのような気がしてしまって。
でも。だけど。
……「ニレといる時だけ」ってあの言葉、もう一度信じてもいいのかな?
いつも履いているスニーカーをつっかけて、ぼくは転がるような勢いで玄関の扉を開ける。すぐに飛び出して、ガシャンと扉が閉まった直後、呼び出し音が止んで「もしもし」と声が聞こえた。
「そういえば、灰崎先輩のファッションショー明日じゃん? 応援の電話とかしないの?」
「ああ……うん、そうだよね」
「あ、そんでさ、今度こそ告っちゃいなって。不安なのはわかるけど、でも成功したら楽しいぞー」
竹内くんはそう言って、ぼくと灰崎先輩が付き合った後に行くべきデートスポットについて熱心に語ってくれた。ぼくはかなり反応に困ったけど、竹内くんの頭の中ですっかり付き合ったことになっている自分たちの話を聞くのが楽しくて、上手く調子を合わせながら最後まで付き合って電話を切った。
ふう、と息をつきながら、ぼくは通話画面を消そうとスマートフォンを見る。そして、小説投稿サイトから通知がきていることに気がついて、えっと大きく声を上げて驚いた。
通知の内容は、ぼくがさっき投稿したばかりの作品に、新しいコメントがついたことを伝えていた。竹下くんはついさっきまで自分の原稿をやっていたはずだから、今回コメントをくれたのは別の人のはずだ。
誰だろう、と気になって、ぼくは急いた気持ちでスマートフォンを操作し、サイトを開く。そのまますぐに通知欄にとんで、コメントをくれた人の名前とアイコンを確認して……息をのむ。
【M:主人公の気持ちがよく伝わってきて面白かったです。この小説のヒーローは多分、ヒロインが思うよりもずっと前から、彼女のことが好きだったんじゃないかな。】
【M:一生けん命アピールしてたのとか、上手く伝わっていなかったのは悲しいけど、ヒーローはきっと主人公のそんなところも大好きなんだろうなって思いました。】
その人は、作品の全話に「いいね」をつけてくれていた。アイコンは綺麗な夕焼け――柔らかいオレンジの空に、同じような感じの色味に染まった猫の形の雲が映っている。
どきん、と大きく心臓が跳ねた後、ぼくの鼓動は、そのままどんどん加速した。だってこの雲は、ぼくが見つけた雲だ。あの日、海の家で、ぼくが見つけて、先輩に伝えて……。
――先輩って猫みたいですよね。
――そう?
――はい。意外とイタズラ好きなところか。
――へえ。
――他の人からも言われません?
――言われないよ。俺がこんなにはしゃいだり喋ったりするの、ニレといる時だけだもん。
「……っ」
ぼくは気づけば、座っていたベッドから勢いよく立ち上がっていた。部屋の隅に掛けてある上着を手に取って、雑に羽織りながらダイニングとの仕切りを開ける。
「おばさん、ちょっと外出てくる!」
「わ、びっくりした。え? 今から? 寒いじゃない」
「ちょっとだから大丈夫!」
「夕飯は?」
「食べる!」
大きな声で答えながら、ぼくはスマートフォンに登録してある先輩の番号に電話をかけた。同居が決まった時におばさん経由で登録したっきり、全然使ってなかった番号だ。
一緒に住んでいる間は、電話をかけたりメッセージを送り合ったりする必要なんて全然なかった。放課後に用事がある時は、先輩がいつも昇降口で待ってくれていたし、なにか話したいことがある時は、この家でいくらでも話すことができた。
先輩が大阪に行ってしまってからは、勇気が出なくてぼくからはかけられなかった。先輩も多分、ぼくの番号は知っているはずなのだけど、それでも電話がかかってくることはなくて――それがある意味、一つの答えのような気がしてしまって。
でも。だけど。
……「ニレといる時だけ」ってあの言葉、もう一度信じてもいいのかな?
いつも履いているスニーカーをつっかけて、ぼくは転がるような勢いで玄関の扉を開ける。すぐに飛び出して、ガシャンと扉が閉まった直後、呼び出し音が止んで「もしもし」と声が聞こえた。


