淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

 その週の土曜日、朝。日が昇るのは、夏に比べればだいぶ遅くなった。

 まだ薄暗いダイニングで、ぼくは一人パソコンをいじる。小説のタイトルやキャッチコピーが表示された画面を上から下まで確認して、大きく一度深呼吸をしてから投稿ボタンをクリックする。

 読者メニューに切り替えて、新着小説からもう一度自分の小説をチェックする。入力した小説情報やタグに間違いがないことを確かめてようやく、ぼくはふーっと息をついて背もたれに寄りかかった。

 コンテスト用の作品の投稿が、ようやく終わった。この前竹下くんと話した時に指摘があった箇所の修正と、誤字脱字の最終チェックを終わらせて、これ以上はもう無理ってくらいまでやり切った。

 竹下くん曰く、本当は少しずつに分けて連載をした方が閲覧数はつくらしいんだけど、今からだとコンテストの締め切りに間に合わないから、ぼくは全文を一気に公開した。応募要項を満たしていて、ハッシュタグさえきちんと設定できていれば、ランキングとかは関係なく審査対象にしてくれるみたい。

 こんなに長い話を完結させたのも、コンテストに応募したのも、これが初めてだ。なんだかんだ嬉しくて、ぼくは自分の作品を一話から順に眺めていった。

 実際にあったことを元に書いているから、文章を読んでいると、先輩との思い出がぼくの頭の中に鮮明に蘇ってくる――大家さんに突然話しかけられて真っ赤になっていた先輩、可愛かったな。放課後にカフェに誘ってくれたの、嬉しかったな。

 肩に寄りかかられたのは、すごくびっくりしたしドキドキした。あと、海の日焼け止め。あれはかなりヤバかった。海でも、遊園地でも、一緒に見た夕焼けはすごく綺麗だった。でもぼくは実は、夕焼けよりもキラキラと眩しい先輩から目が離せなくて。だから今も、思い出すのは先輩の柔らかな微笑みばかり。

 楽しかったなあ。嬉しかったなあ。

 先輩のこと好きになれて、幸せだったなあ。

 鼻の奥がツンとして、目の縁に涙がにじむ。ぼくは慌ててメガネを外して、頬に落ちた水滴を拭った。ここで泣き始めたらおばさんが起きてきた時に心配をかけてしまうし、第一自分で、「前に進む」って決めたんだ。

 ぼくは湿っぽい気持ちを頑張って振り払って、投稿サイトの画面も消した。もうしばらくは見ないぞって心に誓って、パソコン自体の電源も落とす。

 竹内くんに【投稿終わったよ】ってメッセージだけ入れて、ぼくは自分の部屋に戻った。投稿作業はなんだかんだ集中力を使うので疲れてしまう。今日は一日予定がないから、好きなだけ二度寝をしよう。