淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

「なんか最近、眠そうだね」

 くあーっとあくびをした途端にそう言われて、ぼくはぎくりと固まった。
 コンビニで原稿を印刷したあの日から、約一週間後の朝だった。

「もしかして、夜あんまり寝れてない? だったら別に、俺に付き合って早起きしなくても……」
「いえ! 大丈夫です! 全然寝れてます!」

 精一杯明るく答えるぼくの顔を、灰崎先輩がじとーっとした目で見つめ返してくる。はっきりと疑いの眼差しを向けられて、ぼくの心臓はドキドキ、背中には冷や汗がダラダラだ。

 それでもぼくは、なんとか目を逸らさないように頑張った。眠れていないのは本当だけど、それがバレたら、この先輩との大切な朝時間を禁止されてしまうかもしれない。

 それだけは嫌だから、とにかくあくびには気をつけよう、と、そう思った直後にまた眠気がやってきて、ぼくはまた「ふわあ」と口を開けてしまう。

 うーん、やっぱり眠い。これはちょっと、もう少しちゃんと考えなくちゃだな……。

 ぼくはそう反省しながら、手元のクリアファイルに視線を落とした。

 眠気の原因ははっきりとわかっている。今ここにある、一週間前に印刷した紙原稿だ。

 ぼくは今まで、小説に関連する作業のほとんどを、先輩と一緒に過ごす朝の作業時間にやっていた。先輩とは向かい合わせで座るので、パソコンで文字を打っている分には、内容を見られることもなかった。

 だけどこの原稿は、印刷してから「しまった」と思った。紙の原稿はどうしても、チェックする時に机の上に広げるから、向かいの席の先輩にも内容が丸見えになってしまう。

 そうなるとさすがに、紙原稿のチェックは朝の作業時間にはできなくて。ぼくは最近、先輩が寝た後に一度ベッドを抜け出して、ダイニングで夜な夜な推敲作業を進めている。

 そうやって夜のうちに記入した修正箇所は、今みたいにいつもの朝の作業時間に打ち込んでいる。打ち込み作業をするついでに前の部分を読み返しながら、どういう結末にしようかと考えてもいる。

 小説にかける時間が増えたことで、執筆作業自体はけっこう順調だ。ただやっぱり、まとまった睡眠を取れていないのは身体的にけっこうキツくて、どんなに気をつけていても、勝手にまぶたが閉じていってしまう。

「ニレ、ニレ?」

 ぼやっと霞んでいく視界に、先輩の心配そうな顔が映り込んだ。

 あ、これ本格的に駄目だなって悟って、ぼくは最後の力を振り絞って目の前のパソコンを閉じる。

「すいません先輩……がっこ行く時間になったら、おこしてください……」

 その時のぼくはすっかり睡魔に負けてしまっていて、その言葉を最後まできちんと言えたかどうかすらわからなかった。

 完全に眠ってしまう直前、バサバサっとなにかが落ちる音が聞こえた気がしたけれど――それがなんの音かを考えるよりも先に、ぼくの意識は途切れていた。