淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

 部屋を満たす柔らかな紅茶の香り。向かいの席から聞こえるシャープペンシルと紙の摩擦音。

 ぼくの指先からは、カタカタカタとキーボードを打つ音が鳴っている。だけどその速度は、一週間前までよりもずいぶんと遅くなった。

 カタカタカタと打って、一度止まって、またカタカタ打ち始めるけどやっぱりまた止まってしまって、一文消して、三文字書いて、やっぱり全部消してを繰り返して。

 全然集中できてないなって、自分でもわかる。

 一日の中で一番落ち着くはずのこの時間が、一番そわそわする時間に変わってしまったのは、先輩と遊園地に行った翌日からだ。

 ……好きな人からあんな言葉を言われて、あんな風に抱きしめられて。

 さすがのぼくでも、意識しないなんて無理な話だった――でも目の前の先輩は、至って普通。本当にいつも通り。あの日、観覧車を降りた後からずっと。

 なにを考えているんだろう。ぼくのことをどう思っているんだろう。

 どうしても知りたくて、ぼくはこの一週間、隙を見ては先輩の顔を覗き込んだ。でもその度に目に飛び込んできたのは、薄灰色の瞳や綺麗な形の唇、ひんやりと冷たそうな白い肌だ。

 先輩の表情は相変わらずクールで淡白で、感情なんて全然読めなかった。

 それでも前は、まだもう少し先輩の考えていることがわかった気がするんだけど……むしろぼくだけが、他の人が知らない先輩を知っているんだと浮かれていたけど。

 今となっては、そんなの全部勘違いだったのかなって思っちゃうくらい。そもそもぼく、どうやって赤くならずに先輩の顔を見返していたんだっけ。

 目の前の小説は、遊園地デートの最後で止まったまま。

 ここにどんな結末が続くのか、ぼく自身にもさっぱりわからない。

「ニレ、そろそろ支度する?」

 灰崎先輩はそう言って、ちらりとぼくの方を見る。たった一瞬、視線が交わっただけで心臓が跳ねて、ぼくは慌てて手元のノートパソコンの片づけを始めた。

「わかりました。ぼく、これ保存してから色々やるんで、先に洗面所使ってください」

 ん、と小さく返事をして、先輩が去っていく気配がする。ぼくはこっそり胸を撫で下ろして、熱くなった頬に手のひらをあてる。

 最近ずっと、こんなことばっかりだ。先輩と話せるのは嬉しいのに、すぐに目を逸らしちゃったり、挙動不審になっちゃったり。

 せっかく近づけたはずなのに、なんだか上手くいかない。でもやっぱり、ぼくにとってはこれが初めての恋だから、どうすればいいのかさっぱりわからない。