遊園地には小さいながらに定番のアトラクションが揃っていて、フードコートで腹ごしらえをした後は、ぼくたちはずっと遊んでいた。
先輩は射的が上手くて、ぼくは迷路が上手かった。怖かったけどジェットコースターにも乗った。AR技術を使ったシューティングゲームが楽しくて、三回も並んで遊んでしまった。
楽しいな、嬉しいなって思っているうちにあっという間に夕方になって、本当に寂しい気持ちになった――「また来ましょう」って、言っていいのかな。またぼくと一緒に来たいって、先輩も思ってくれたかな。
そんなことを考えていると、「どうぞー」と係りの人から声をかけられた。ぼくたちが今並んでいるのは、大きな観覧車の待機列だ。
「ニレ、おいで。足元気をつけて」
さっと前に出て先にゴンドラに乗り込んだ先輩が、中から手を差し伸べてくれる。ぼくは真っ赤になりながらその手を掴んで、不安定に揺れる床に右足を乗せる。
先輩とは向かい合わせに座って、大きな透明の窓から、遠ざかっていく地上の景色を一緒に眺めた。ジェットコースターの鉄骨やビルの窓ガラスが夕陽を反射して輝き、ゴンドラが昇るにつれて、遊園地内からは見ることのできなかった海が姿を現す。
「すごい。綺麗ですね。ぼく観覧車初めて乗りました」
「……うん」
「先輩は、前に来た時も乗ったんですか?」
「うん」
「あっ、あのホテルめっちゃ高級そうじゃないですか? 人生で一度は泊ってみたいな」
「……」
「先輩?」
黙り込んでしまった灰崎先輩の方に、ぼくは顔を向ける。首を傾げながら見つめると、先輩は薄灰色の瞳を逸らしながら「あー……」とつぶやいて、自分の後ろ髪をくしゃりとやった。
「あのさ、ニレ」
「はい?」
「その、俺ね、」
「?」
先輩は歯切れ悪く言いつつ、自分のマスクに手をかけた。外そうとして、ためらって、もう一回外そうとして――やっぱりやめて、右手を膝の上に戻す。
「ごめん。なんでもない」
えっと驚いて、ぼくは先輩をまじまじと見つめる。夕陽のオレンジのせいでよくわからないけど、先輩の目元や耳元は、さっきのぼくと同じように赤く染まっているように見える。
「…………」
ぼくもつられてドキドキしてしまって、「気になるから教えてください」も言えずにうつむいた。膝の上の自分の手の甲を見て、そこに先輩の指先が触れてきた時のことを思い出して。よけいにドキドキして、もう灰崎先輩のことだけで、頭も胸もいっぱいになってしまう。
「あの、今日。どうしてぼくをここに連れてきてくれたんですか……?」
ぼくのこと好きですか? なんて聞けないから、代わりの質問で沈黙を誤魔化した。
少しの間の後、先輩は目を逸らしたまま、「だってさ」と小さな声で話し始める。
「詳しいことはわかんないけど、ショッピングモール云々も、どうせ『竹下くん』の言いなりなんでしょ? それは嫌だって思ったから……その髪型も、コンタクトも、服も、すごく似合ってるけど、俺は嫌。ニレをカッコよくするのも楽しませるのも、本当は全部、ぜんぶ俺がいい」
――だって、ニレの魔法使いは俺でしょ?
言葉の意味を理解するよりも先に、隣までやってきた先輩にぎゅっと強く抱きしめられた。
先輩の体温とにおいに突然包まれて、冗談抜きで息が止まりそうになる。びっくりしすぎて言葉が出ない。
先輩も、それ以上はなにも言わなかった。ただ、ロングTシャツの生地越しにトクトクと速い鼓動が聞こえてきて、それがなんだか、全ての答えのような気がしてしまって。
……ずっとこうしていられたら良いのにって、本気で思った。もしぼくが本当の魔法使いだったら、絶対に今この瞬間で時間を止めるのに。
先輩は射的が上手くて、ぼくは迷路が上手かった。怖かったけどジェットコースターにも乗った。AR技術を使ったシューティングゲームが楽しくて、三回も並んで遊んでしまった。
楽しいな、嬉しいなって思っているうちにあっという間に夕方になって、本当に寂しい気持ちになった――「また来ましょう」って、言っていいのかな。またぼくと一緒に来たいって、先輩も思ってくれたかな。
そんなことを考えていると、「どうぞー」と係りの人から声をかけられた。ぼくたちが今並んでいるのは、大きな観覧車の待機列だ。
「ニレ、おいで。足元気をつけて」
さっと前に出て先にゴンドラに乗り込んだ先輩が、中から手を差し伸べてくれる。ぼくは真っ赤になりながらその手を掴んで、不安定に揺れる床に右足を乗せる。
先輩とは向かい合わせに座って、大きな透明の窓から、遠ざかっていく地上の景色を一緒に眺めた。ジェットコースターの鉄骨やビルの窓ガラスが夕陽を反射して輝き、ゴンドラが昇るにつれて、遊園地内からは見ることのできなかった海が姿を現す。
「すごい。綺麗ですね。ぼく観覧車初めて乗りました」
「……うん」
「先輩は、前に来た時も乗ったんですか?」
「うん」
「あっ、あのホテルめっちゃ高級そうじゃないですか? 人生で一度は泊ってみたいな」
「……」
「先輩?」
黙り込んでしまった灰崎先輩の方に、ぼくは顔を向ける。首を傾げながら見つめると、先輩は薄灰色の瞳を逸らしながら「あー……」とつぶやいて、自分の後ろ髪をくしゃりとやった。
「あのさ、ニレ」
「はい?」
「その、俺ね、」
「?」
先輩は歯切れ悪く言いつつ、自分のマスクに手をかけた。外そうとして、ためらって、もう一回外そうとして――やっぱりやめて、右手を膝の上に戻す。
「ごめん。なんでもない」
えっと驚いて、ぼくは先輩をまじまじと見つめる。夕陽のオレンジのせいでよくわからないけど、先輩の目元や耳元は、さっきのぼくと同じように赤く染まっているように見える。
「…………」
ぼくもつられてドキドキしてしまって、「気になるから教えてください」も言えずにうつむいた。膝の上の自分の手の甲を見て、そこに先輩の指先が触れてきた時のことを思い出して。よけいにドキドキして、もう灰崎先輩のことだけで、頭も胸もいっぱいになってしまう。
「あの、今日。どうしてぼくをここに連れてきてくれたんですか……?」
ぼくのこと好きですか? なんて聞けないから、代わりの質問で沈黙を誤魔化した。
少しの間の後、先輩は目を逸らしたまま、「だってさ」と小さな声で話し始める。
「詳しいことはわかんないけど、ショッピングモール云々も、どうせ『竹下くん』の言いなりなんでしょ? それは嫌だって思ったから……その髪型も、コンタクトも、服も、すごく似合ってるけど、俺は嫌。ニレをカッコよくするのも楽しませるのも、本当は全部、ぜんぶ俺がいい」
――だって、ニレの魔法使いは俺でしょ?
言葉の意味を理解するよりも先に、隣までやってきた先輩にぎゅっと強く抱きしめられた。
先輩の体温とにおいに突然包まれて、冗談抜きで息が止まりそうになる。びっくりしすぎて言葉が出ない。
先輩も、それ以上はなにも言わなかった。ただ、ロングTシャツの生地越しにトクトクと速い鼓動が聞こえてきて、それがなんだか、全ての答えのような気がしてしまって。
……ずっとこうしていられたら良いのにって、本気で思った。もしぼくが本当の魔法使いだったら、絶対に今この瞬間で時間を止めるのに。


