淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

「それって嫉妬じゃない?」

 三日後、朝の空き教室。

 窓際の席、机を挟んで向かい合わせに座った竹下くんが、ぼくに向かってズバリと言い切った。

「嫉妬……?」

 あまりに予想外の意見をもらって、ぼくはぽかんと口を開けたまま思考停止してしまう。

「そう、嫉妬。だってその子、俺が貸した本の表紙見て『女の子だ』って言って、楡がそういうの好きだって知ったら超絶拗ねちゃったんだろ。それって嫉妬以外の何物でもなくない?」

 にやっと、竹下くんはなぜか少し楽しそうに口元を緩める。「よかったなー楡。両思いじゃん!」と肩を叩かれて、ぼくは心の底から驚いてしまった。

「っそ、そんなことあるわけないじゃん! 灰……その先輩は、ぼくとは比べものにならないくらいキラキラで、ほんとに雲の上みたいな存在で」
「でもけっこう仲良いんだろ? じゃあ楡は逆に、嫉妬以外の可能性考えられるのか? これが恋愛小説だとして、おんなじ反応したヒロインが出てきて『嫉妬じゃありませんでした!』で読者が納得できるパターン、想像できる?」

 竹下くんの指摘に、ぼくは返す言葉を失って黙り込んでしまう。そう言われてみれば、確かにそうなんだけど……。

 ぼくは窓の外のざわめきを聞きながら、うーん、と小さく首をひねった。

 あの日、ぼくが本の話をしたお昼休みから今日まで、灰崎先輩はなんだかずっと機嫌が悪い。相変わらず一緒に登下校するし、昨日も一昨日も一緒にお昼を食べたけど、あんまり目が合わないし会話も弾まない。

 それで、どんより落ち込むぼくを見かねて、竹下くんが事情を聞いてくれたのが昨日のことだ。授業と授業の間の十分休みは短すぎるし、お昼や放課後は灰崎先輩と一緒に過ごすから、じゃあ朝のうちに話そうってことになった。

「にしても、楡は抜けてるなー。好きな女子の前でラノベに出てくる女の子をほめるなんて。しかもハーレムものを『好き』って言っちゃうとか、そりゃ機嫌悪くなるに決まってるじゃんね」

 竹下くんの言葉が、またもやぐっさりとぼくの心臓を刺す。いや、先輩は女子じゃないけど。でもぼくは竹下くんに「好きな人」って伝えただけだから、彼の中では自然と、先輩は女の子ってことになってるんだと思う。

「どうすれば挽回できるんだろう……」

 ぼくは泣き言を言いならがら、へろへろと机に上半身を預けた。

 先輩は女の子じゃないし、詳しい事情もわからない。でも普通に引かれてしまったという可能性は大いにある。先輩はロリータモデルをしてるから、いくら二次元とはいえ、目の前で可愛い女の子をほめたのもやっぱりよくなかったかもしれない。

「先輩に嫌われたかも」って思うだけで、ぼくの胸はズキンと痛む。本当にどうしよう。

「大丈夫だ楡、俺に一つ、作戦がある!」
「……作戦?」

 自信満々に言ってくれた竹下くんの顔を、ぼくは下から覗き込む。

 ぼくと目が合った竹下くんはこっくりとうなずき、にっこりと前歯を見せて爽やかに笑った。