体育館脇は人気がなく、建物の影が日差しを遮ってくれるのもあり、ひんやりと静かな空気がただよっていた。教室棟へ向かう生徒たちの喧騒を遠くに聞きながら「灰崎先輩はもう教室に戻ったのかな」とかぼんやり考えていたら、目の前に突然スマートフォンの画面を突きつけられた。
「これって楡?」
わっ、と驚いてから、ぼくは目を細めて、小さな画面にピントを合わせる。【なぎ:小説書いてます。初心者ですが、よろしくお願いします】。
「!!!!!!!」
ずささっと、ぼくは全力で後ずさりをした。だって! だってだってだって!!!
なんで同じクラスの全然関わりない陽キャが、ぼくの小説アカウント知ってるの!!!!!
「あ、その感じ、やっぱ正解? いや、なんかさー。夏休み中めっちゃ暇で。ぼんやり適当に色々あさってたらさ、ホラ、アイコンのペンケース。これ俺も同じの昔持ってて。あ、楡が同じの使ってるのも入学式の日から気づいてたよ? それで、一緒に写ってる黒縁メガネと、あとペンネームも『なぎ』だし」
「……! !!!! !!!!!!」
驚きすぎて、言葉が出ない。でも竹下くんの言ってる意味はわかる。つまり「アイコンの写真で気づいた」ってことだ。
確かにぼくは、いつも使ってるペンケースと自分のメガネを一緒に写真に撮って、ユーザーアイコンに設定した。だってなんか、小説家っぽくていいなって思ったから。ペンネームだって全然思いつかなくて、まあ下の名前なら、「なぎさ」なんて他にもいっぱいいるだろうから、ちょっと短くして「なぎ」。
ペンケースもメガネも、なんの変哲もないシンプルな黒いやつだ。だから「学校の知り合いにバレるかも」なんて全然、考えもしなかった……。
「もちろんこれだけだったら、まあ超絶すごい偶然かなーとか思ったけどさ。でもこれ読んで『やっぱ楡だ!』ってなったわけ」
そう言って画面をいじった竹下くんが見せてきたのは、ぼくが春頃に書いた幽霊が主人公の短編小説。
「言わないで!!!」
考えるよりも先に、ぼくは竹下くんに向かって、がばっと思い切り頭を下げていた。
あまりの恥ずかしさに、手足が震える。声も震える。でも今頑張るしかない。今頑張らなきゃ、ぼくの高校生活は確実に終わる……!
「お願いだから、クラスの皆には内緒にしておいて。ぼくのどこが気に入らない? 直せるところなら全力で直すし、なにか気に障ることをしちゃったんなら謝る。できるだけ竹下くんの視界に入らないように生活する。だから……」
地面を見つめながら話し続けるぼくの頭上で、「え? ええ?」と竹下くんが慌てる声がする。「とりあえず顔上げて」と言われて、ぼくは恐る恐る体勢を戻した。
「直せるところ? 気に障る? え、マジでなんの話?」
「え……。ぼくがなにか、竹下くんを怒らせたり不快にさせちゃったりしたんじゃないの? だからぼくの恥ずかしい秘密を皆に言いふらして、笑いものにするつもりなのかなって……」
「それ完全にイジメじゃん! 俺そんなことしないよ!」
事情を理解したらしい竹下くんは、顔の前でブンブン手を振って大きな声で叫んだ。ちょっと焦りつつ、でもまた少し楽しそうに笑いながら、自分のスマートフォンを操作する。
「誤解させてごめん。全然違くて。俺はむしろ、楡と仲良くなりたいんだよ」
ぱっとこちらに向けられた画面を、ぼくはメガネのフレームに指をかけながら覗き込む。
それで、そこに書いてあった文字を見て、「ええええっ」と竹下くんに負けないくらい大きな声で叫んでしまった。
「竹下くんが【たけっち】なの?!」
思いっきり目を開いて見返すと、竹下くんはこくっとうなずいて、照れくさそうに小さく笑った。
「これって楡?」
わっ、と驚いてから、ぼくは目を細めて、小さな画面にピントを合わせる。【なぎ:小説書いてます。初心者ですが、よろしくお願いします】。
「!!!!!!!」
ずささっと、ぼくは全力で後ずさりをした。だって! だってだってだって!!!
なんで同じクラスの全然関わりない陽キャが、ぼくの小説アカウント知ってるの!!!!!
「あ、その感じ、やっぱ正解? いや、なんかさー。夏休み中めっちゃ暇で。ぼんやり適当に色々あさってたらさ、ホラ、アイコンのペンケース。これ俺も同じの昔持ってて。あ、楡が同じの使ってるのも入学式の日から気づいてたよ? それで、一緒に写ってる黒縁メガネと、あとペンネームも『なぎ』だし」
「……! !!!! !!!!!!」
驚きすぎて、言葉が出ない。でも竹下くんの言ってる意味はわかる。つまり「アイコンの写真で気づいた」ってことだ。
確かにぼくは、いつも使ってるペンケースと自分のメガネを一緒に写真に撮って、ユーザーアイコンに設定した。だってなんか、小説家っぽくていいなって思ったから。ペンネームだって全然思いつかなくて、まあ下の名前なら、「なぎさ」なんて他にもいっぱいいるだろうから、ちょっと短くして「なぎ」。
ペンケースもメガネも、なんの変哲もないシンプルな黒いやつだ。だから「学校の知り合いにバレるかも」なんて全然、考えもしなかった……。
「もちろんこれだけだったら、まあ超絶すごい偶然かなーとか思ったけどさ。でもこれ読んで『やっぱ楡だ!』ってなったわけ」
そう言って画面をいじった竹下くんが見せてきたのは、ぼくが春頃に書いた幽霊が主人公の短編小説。
「言わないで!!!」
考えるよりも先に、ぼくは竹下くんに向かって、がばっと思い切り頭を下げていた。
あまりの恥ずかしさに、手足が震える。声も震える。でも今頑張るしかない。今頑張らなきゃ、ぼくの高校生活は確実に終わる……!
「お願いだから、クラスの皆には内緒にしておいて。ぼくのどこが気に入らない? 直せるところなら全力で直すし、なにか気に障ることをしちゃったんなら謝る。できるだけ竹下くんの視界に入らないように生活する。だから……」
地面を見つめながら話し続けるぼくの頭上で、「え? ええ?」と竹下くんが慌てる声がする。「とりあえず顔上げて」と言われて、ぼくは恐る恐る体勢を戻した。
「直せるところ? 気に障る? え、マジでなんの話?」
「え……。ぼくがなにか、竹下くんを怒らせたり不快にさせちゃったりしたんじゃないの? だからぼくの恥ずかしい秘密を皆に言いふらして、笑いものにするつもりなのかなって……」
「それ完全にイジメじゃん! 俺そんなことしないよ!」
事情を理解したらしい竹下くんは、顔の前でブンブン手を振って大きな声で叫んだ。ちょっと焦りつつ、でもまた少し楽しそうに笑いながら、自分のスマートフォンを操作する。
「誤解させてごめん。全然違くて。俺はむしろ、楡と仲良くなりたいんだよ」
ぱっとこちらに向けられた画面を、ぼくはメガネのフレームに指をかけながら覗き込む。
それで、そこに書いてあった文字を見て、「ええええっ」と竹下くんに負けないくらい大きな声で叫んでしまった。
「竹下くんが【たけっち】なの?!」
思いっきり目を開いて見返すと、竹下くんはこくっとうなずいて、照れくさそうに小さく笑った。


