楡、と肩を叩かれたのは、体育館での始業式の後だった。教室棟へ向かう渡り廊下を歩きながら振り返ると、同じクラスの竹下くんが「よっ」と軽く右手を挙げた。
「俺竹下。竹下翔也。同じクラス」
「? うん。知ってるけど」
「あ、マジ? よかった。ちゃんと話すの初めてだからさー」
竹下くんは屈託なく笑って、頬のあたりを照れくさそうに掻く。すっきりした一重と整えられた眉には清潔感があって、ぼくとは正反対の短い髪。
なんていうか……うん。陽キャだ。
「竹下くんこそ、」
「ん?」
「ぼくが見えてるの……?」
「ぶふぉっ」
大きく吹き出した竹下くんが、その場に足を止めて咳き込み始める。上半身を折り曲げて、両手をお腹にあてて、ひーひー苦しそうに笑っている。
「竹下邪魔ー」
「なに笑ってんの?」
「そうだ放課後! ゲーセン行くから忘れんなよー」
「ってかマジで邪魔すぎ!」
何人ものクラスメイトたちが、口々に言いながらぼくたちを追い越していく。「邪魔」とか言われてるけど、竹下くんは全く気にしない。「わり、わりー」と頭をぺこぺこやりながら、それでもずっと笑い続けている。
「ごめん、ほんとツボった。楡っておもしろいな」
「え、そう……?」
「うん。でさ、ちょっと話したいんだけど、こっち来てくれる?」
ようやく笑いがおさまってきた竹下くんは、手招きをしながら体育館脇に歩いていく。
ぼくは首を傾げながら、パタパタとその後を追った。話ってなんだろう。っていうか、「面白い」なんて初めて言われた。


