その後、夏休みの後半は思いの外あっという間に過ぎていった。先輩は模試やら何やらで時々出かけていき、ぼくはその間もほとんど家にいて、小説の執筆や投稿、夏休みの課題に取り組んでいた。
「ニレ、行こう」
玄関の方から呼ばれて、ぼくは慌てて自分のスクールバッグを肩にかけて部屋を出た。
今日は二学期の始業式だ。とりあえず午前中だけ学校に行って、午後は解散。本格的な授業は明日から。
「あっつい……これ、いつまで続くんだろう」
アパート前の小道を歩きながら、灰崎先輩は自分のスクールバッグをあさる。海で使っていたのと同じ日傘をすぐに取り出して、頭の上でばさっと開く。
「ほら、ニレも」
そう言われるや否や、問答無用で肩を引き寄せられていた。
ぼくの心臓はもちろん、ドキンっと大きく跳ねて忙しなく鼓動する。相合傘は二回目だけど、今日は海の時とは違って、表通りに出れば何人もの同じ高校の生徒たちとすれ違うことになる。
先輩、今日はいいです。ぼくなんかと歩いてて、しかも相合傘なんて、先輩も恥ずかしいでしょうし……!
そんな言葉が喉まで出かかって、実際に口も開いた。でも結局は吐き出す前におばさんの言葉が脳裏をよぎって、ぼくは慌てて口をつぐむ。
あんまり卑屈になっちゃ、御仁くんだって可哀想でしょ。
……卑屈になってるつもりなんて全然ない。だけど、おばさんの言いたいことも、全くわからないってわけじゃない。
自分だけ仲がいいって思ってる状況は確かに、ぼくだったらすごく寂しいから。
「と……っ、とりゃ!」
日傘を差してくれている先輩の腕に、ぼくは思い切ってえいっと身を寄せた。
あんまりくっついても暑いし、歩きづらいから、ほんの一瞬だけだったけど。
「なっ、なーんちゃって!」
結局、柄にもないセリフを言いながらすぐに離れた。だけど心臓はバクバクで、ぼくは照れ隠しにうつむいた状態のまま、それ以上は何も言えなくなってしまう。
「……、…………、………………」
そんなぼくに何か尋ねるでもなく、先輩はその後、学校に着くまでずっと無言だった。「引かれたかな?」とか「鬱陶しかったかな?」とか、不安は募るばかりだったけど、顔を上げて確かめるなんて絶対にできない。
だって顔が、首が、背中が、今までにないくらい熱い。もちろんこれは、夏の日差しのせいなんかじゃなく。
「ニレ、行こう」
玄関の方から呼ばれて、ぼくは慌てて自分のスクールバッグを肩にかけて部屋を出た。
今日は二学期の始業式だ。とりあえず午前中だけ学校に行って、午後は解散。本格的な授業は明日から。
「あっつい……これ、いつまで続くんだろう」
アパート前の小道を歩きながら、灰崎先輩は自分のスクールバッグをあさる。海で使っていたのと同じ日傘をすぐに取り出して、頭の上でばさっと開く。
「ほら、ニレも」
そう言われるや否や、問答無用で肩を引き寄せられていた。
ぼくの心臓はもちろん、ドキンっと大きく跳ねて忙しなく鼓動する。相合傘は二回目だけど、今日は海の時とは違って、表通りに出れば何人もの同じ高校の生徒たちとすれ違うことになる。
先輩、今日はいいです。ぼくなんかと歩いてて、しかも相合傘なんて、先輩も恥ずかしいでしょうし……!
そんな言葉が喉まで出かかって、実際に口も開いた。でも結局は吐き出す前におばさんの言葉が脳裏をよぎって、ぼくは慌てて口をつぐむ。
あんまり卑屈になっちゃ、御仁くんだって可哀想でしょ。
……卑屈になってるつもりなんて全然ない。だけど、おばさんの言いたいことも、全くわからないってわけじゃない。
自分だけ仲がいいって思ってる状況は確かに、ぼくだったらすごく寂しいから。
「と……っ、とりゃ!」
日傘を差してくれている先輩の腕に、ぼくは思い切ってえいっと身を寄せた。
あんまりくっついても暑いし、歩きづらいから、ほんの一瞬だけだったけど。
「なっ、なーんちゃって!」
結局、柄にもないセリフを言いながらすぐに離れた。だけど心臓はバクバクで、ぼくは照れ隠しにうつむいた状態のまま、それ以上は何も言えなくなってしまう。
「……、…………、………………」
そんなぼくに何か尋ねるでもなく、先輩はその後、学校に着くまでずっと無言だった。「引かれたかな?」とか「鬱陶しかったかな?」とか、不安は募るばかりだったけど、顔を上げて確かめるなんて絶対にできない。
だって顔が、首が、背中が、今までにないくらい熱い。もちろんこれは、夏の日差しのせいなんかじゃなく。


