淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

 その後、焼肉を食べ終えたぼくたちは、そのまままっすぐ家に帰った。家に着いて焼肉くさい服をさっさと着替えて、おばさん、灰崎先輩、ぼくの順番で風呂に入り、居間でパソコン作業をするおばさんに「おやすみ」を言って床に就く。

「おやすみ、ニレ」

 自分の布団にもぐり込みながら、先輩が声をかけてくれる。ぼくも「おやすみなさい」と応じてベッドで目を閉じたけど、まだ胃の中で自己主張をしているお肉たちのせいか、なかなか上手く寝つけなかった。

 右へ左へ、ついごろごろと忙しなく寝返りを打ってしまう。先輩を起こしてしまわないか不安だったけど、ありがたいことに、部屋の隅の布団からはすーすーと穏やかな寝息が聞こえてくる。

 先輩はいつも寝つきがよくてすごい。それに比べてぼくは、一度「寝れない」って思っちゃうと、なかなか寝つけないタイプだ。

 一人の夜は暇すぎて、あんまりよくないよなってわかりつつ、ぼくは枕元のスマートフォンを手に取った。

 それで、ロック画面の通知を見て、ぼくの心臓はドキンと跳ねた。

【新しいコメントが一件あります。】

「うええっ?!」

 上半身を勢いよく起こしながら思わず叫んでしまい、慌てて口元を押さえて、ぼくは先輩の方を向く。すーすー、と変わらない眠気を確認して、ほっと胸を撫でおろす。

 ぼくはドキドキした心臓のまま、人さし指で通知をタップした。すると、新しくウェブブラウザのタブが開いて、ぼくが今朝アカウント登録したばかりの小説投稿サイトの作家メニューが画面に表示される。

【たけっち:面白かったです。次回作も楽しみにしてます。】

「わ、わわわ、えええ……」

「たけっち」はコメントをくれたユーザーのアカウント名だ。閲覧数は1、いいねも1。

 投稿サイトのことはよくわからないけど、初めて投稿した小説を初めて読んでくれた人がそのまま「いいね」もコメントもつけてくれるなんて、超超超レアなことでは……?

 事前にネットで調べた時には、【どうせ読まれない】【感想なんて全然こない】みたいな意見もたくさん見かけた。だからこそよけいに、ぼくにはこのコメントがありがたく感じられてくる。

 そうだ返信! 返信しないと!!

「えっと……【ありがとうございます。実は自分の小説を誰かに読んでもらったのは初めてで】……。『実は』とか言われても興味ないか。【ありがとうございます。コメント嬉しいです。また投稿しようと思います。】――これじゃ短すぎ……? ありがとうございます……ってもしかして【ありがとうございます!】の方がいい……???」
「ちょっとなぎさ、大丈夫?」
「?!」

 ぶつぶつ言いながら返信を考えていたら、突然ダイニングとの仕切りが開いておばさんが顔を覗かせた。「さっきもなんか叫んでたけど……」と訝し気な顔で言われて、ぼくは説明の仕方がわからなくて黙り込んでしまう。

「寝れないならこっちでお茶でも飲む? あんまりゴソゴソしてると御仁くん起きちゃうよ」

 ごもっともな指摘に、ぼくは自分のベッドを抜け出してダイニングに移った。

 そんなぼくを満足そうに眺めたおばさんが、いつもより少しだけ光量を絞った照明の下で、電気ケトルにお湯を沸かし始める。