淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

 そんなこんなで、灰崎先輩と海に行けたことは、ぼくの中でとびっきり特別な思い出になった。日課の小説にももちろん色々書いたし、あの日見た先輩の笑顔とか、背中に触れた指先の滑らかさをふいに思い出しては、どうしようもなく体が熱くなったり口元がにやけてしまったり。

 期待しちゃう気持ちだって、正直ないわけじゃない。だけどそこはやっぱり、ぼくが勝手に舞い上がっちゃってるだけなんだろうな、とも思う。

 だってぼくは「幽霊」で、でも先輩はもしかしたら、これからモデルデビューしちゃうかもしれないくらいすごい人なんだから。

 全然つりあわないってことは、自分が一番よくわかっている。だったらせめて、今のままで。よけいなことなんてしないで、ぼくの前でだけ柔らかく笑ってくれる灰崎先輩をただ見ていたい。できるだけ長く、先輩が本当に、ぼくの手が届かないところに行ってしまうその日まで。

 ぼくは、ぼくがシンデレラじゃなくてよかったって思う――二十四時の鐘が鳴るまでしかもたない魔法なんて、短すぎるから。