淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

「……終わりました」
「ん、ありがと」

 日焼け止めを塗り終わって声をかけると、先輩はそう応えて元の姿勢に戻った。

 ぼくの心臓は相変わらず、けっこうな速度で脈打っている。顔だって絶対に真っ赤になっているから、それを見られるのが嫌で、ぼくはわざと先輩に背を向けて荷物の整理に集中しているフリをした。

「ニレは日焼け止め、いいの?」
「ぼくはべつに、そんなに気にしてないので……」

 そこまで言いかけて、並々ならぬ視線を感じてぼくは振り向いた。自分の着替えを終え、ラッシュガードを身につけた灰崎先輩が、ぐっと眉間にシワを寄せてぼくを見つめてくる。

「駄目だよニレ。海の日差しは侮れないんだから」

 アーモンド型の目元はとても真剣で、もはや睨まれてるような気持ちになる。

 そんな風に有無を言わせぬ態度で迫られてしまい、ぼくは早々に観念した。わかりました、と答えて先輩の日焼け止めを拝借し、顔や手足に白い液体を塗り込んでいく。

「すいません、背中だけ……」

 先輩みたいにラッシュガードなんて持ってきていないので、ここだけは頼まないわけにいかなかった。「ん、」とそっけなく返事をした先輩にチューブを預けてから背を向け、今度はぼくが、少し前屈みになって日焼け止めを塗ってもらう。

「っ……」

 やがてうなじのあたりに垂らされた液体の冷たさに、ぼくは思わず息をのんだ。

 直後、先輩の指先の感触がそっと触れてきて、びっくりするくらい優しい手つきで背中全体をなぞられる。

 生ぬるい感じの体温とか、見た目よりもずっと大きく感じられる手のひらとか。

 まだ砂浜にすらたどり着いていないのに、ぼくの心臓は悲鳴を上げていた――これ以上ドキドキさせないで!!!

 するっと腰のあたりをなぞられた時なんか、本当に変な声が出そうでヤバかった。咄嗟に下唇を噛んで耐えたぼくを、誰か盛大に褒めてほしい。