駅の改札を抜けた後は、他の海水浴客と一緒になって砂浜を目指した。
「うわ、やっぱりすごく暑いですね」
思わずそうつぶやきながら見上げれば、空はどこまでも晴れ渡っていて、真夏の太陽が突き刺すような強烈な光を放っている。
……ぼくこれ、今日一日熱中症にならずにやっていけるかな。
顔をしかめて考え込んでいると、「一緒に入る?」という声がけと共に、ぼくの頭上に傘がさしかけられた。黒くてシンプルなデザインの、折りたたみ式の日傘のようだ。
「え、すごい。なんでそんなに準備いいんですか?」
「や、これに関しては、普段から一応持ち歩いてるから。あんまり焼けるわけにもいかないし」
日傘の持ち主である灰崎先輩が、照れくさそうに付け加えて目を逸らす。そっか、そうだよね。モデルさんだもんね。
今さらだけど、海なんか来て大丈夫だったのかなあ。
そう思いながら、ぼくは先輩と身を寄せ合って歩いた。傘で日差しが遮られて、さっきより涼しくなっているはずなのに、先輩の腕とぼくの肩が頻繁に触れ合うせいで、体はむしろドキドキして熱い。
そのまま海の家にたどり着いて、更衣室で着替える時はもっとドキドキして危なかった。だって隣同士で着替えるんだ。どんなに見ないようにしても、衣擦れの音だけで緊張してしまう。
「あ、ニレ。俺のラッシュガードそっちにない?」
途中、そんな風に尋ねられれば顔を向けないわけにはいかなくて、ぼくは手元の荷物を漁ってから先輩の方を振り向いた。瞬間、目に飛び込んできた均整のとれた上半身に、かっと頬が熱くなる。
灰崎先輩の体は、細身だけどバランスよく筋肉がついていて、貧相なぼくとは全然違った。日焼けの跡やちょっとした引っかき傷も一切なく、滑らかな肌は雪のように白くて、つい触れてみたい衝動に駆られてしまう。
「ありがと。あと首の裏に日焼け止め塗ってほしい。ムラになると嫌だから」
「?!」
手渡したラッシュガードの代わりに日焼け止めを握らされて、返事をする間もなく、普段滅多にお目にかかれない先輩のうなじが目の前に迫った。
チューブの蓋を開ける手が、緊張と混乱で震えた。自分の手が熱いせいで、とろりと絞り出した液体が異様に冷たく感じる。
「失礼、します……」
そう声をかけて、恐る恐る肌に触れると、先輩は小さく肩を跳ねさせてくすぐったそうに身をよじった。「ニレ、もうちょっと力入れていいよ」って言われたけど、この綺麗な肌を少しでも傷つけるかもしれないのが怖くて。
ぼくは慎重に慎重に、羽で撫でるような手つきで日焼け止めを伸ばしていく。
「……っ、……」
やがて静かになった先輩は、息を詰めてくすぐったさを堪えているようだった。
ぼくの方だって、なにか気が利いたことを話せる余裕なんて全然ない。ガヤガヤと賑やかな、少し薄暗い更衣室で、ぼくたちの間にだけ小さな沈黙が落ちる。
「うわ、やっぱりすごく暑いですね」
思わずそうつぶやきながら見上げれば、空はどこまでも晴れ渡っていて、真夏の太陽が突き刺すような強烈な光を放っている。
……ぼくこれ、今日一日熱中症にならずにやっていけるかな。
顔をしかめて考え込んでいると、「一緒に入る?」という声がけと共に、ぼくの頭上に傘がさしかけられた。黒くてシンプルなデザインの、折りたたみ式の日傘のようだ。
「え、すごい。なんでそんなに準備いいんですか?」
「や、これに関しては、普段から一応持ち歩いてるから。あんまり焼けるわけにもいかないし」
日傘の持ち主である灰崎先輩が、照れくさそうに付け加えて目を逸らす。そっか、そうだよね。モデルさんだもんね。
今さらだけど、海なんか来て大丈夫だったのかなあ。
そう思いながら、ぼくは先輩と身を寄せ合って歩いた。傘で日差しが遮られて、さっきより涼しくなっているはずなのに、先輩の腕とぼくの肩が頻繁に触れ合うせいで、体はむしろドキドキして熱い。
そのまま海の家にたどり着いて、更衣室で着替える時はもっとドキドキして危なかった。だって隣同士で着替えるんだ。どんなに見ないようにしても、衣擦れの音だけで緊張してしまう。
「あ、ニレ。俺のラッシュガードそっちにない?」
途中、そんな風に尋ねられれば顔を向けないわけにはいかなくて、ぼくは手元の荷物を漁ってから先輩の方を振り向いた。瞬間、目に飛び込んできた均整のとれた上半身に、かっと頬が熱くなる。
灰崎先輩の体は、細身だけどバランスよく筋肉がついていて、貧相なぼくとは全然違った。日焼けの跡やちょっとした引っかき傷も一切なく、滑らかな肌は雪のように白くて、つい触れてみたい衝動に駆られてしまう。
「ありがと。あと首の裏に日焼け止め塗ってほしい。ムラになると嫌だから」
「?!」
手渡したラッシュガードの代わりに日焼け止めを握らされて、返事をする間もなく、普段滅多にお目にかかれない先輩のうなじが目の前に迫った。
チューブの蓋を開ける手が、緊張と混乱で震えた。自分の手が熱いせいで、とろりと絞り出した液体が異様に冷たく感じる。
「失礼、します……」
そう声をかけて、恐る恐る肌に触れると、先輩は小さく肩を跳ねさせてくすぐったそうに身をよじった。「ニレ、もうちょっと力入れていいよ」って言われたけど、この綺麗な肌を少しでも傷つけるかもしれないのが怖くて。
ぼくは慎重に慎重に、羽で撫でるような手つきで日焼け止めを伸ばしていく。
「……っ、……」
やがて静かになった先輩は、息を詰めてくすぐったさを堪えているようだった。
ぼくの方だって、なにか気が利いたことを話せる余裕なんて全然ない。ガヤガヤと賑やかな、少し薄暗い更衣室で、ぼくたちの間にだけ小さな沈黙が落ちる。


