淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

 その日くらいから、先輩はぼくによく声をかけてくれるようになった……気がする。元々、他の人よりは仲良くしてもらっている自覚はあったけど、それとはまた少し違う感じ。

 まず放課後は、毎日教室まで迎えにきてくれるようになった。それから時々、お昼に誘われたり。あとは、そう。

「あ、ニレ。お疲れ。ニレもプールだったんだ」

 ――学校ですれ違うとこんな風に、小さく手を振りながら近づいてきて、たくさん話しかけてくれるようになった。

「あ、そうです。先輩も水泳ですか」
「そう。受験生なのにひどいよね。まあ息抜きになるからいいっちゃいいけど」

 まだ水気の残る銀髪をかき上げる灰崎先輩は、なにかの法律に触れるんじゃないかってくらい色っぽい。いやまあ、ぼくは家でも、お風呂上がりの姿とかは見てるんだけど。そしてそれはそれでわりとヤバい感じだからぼくは実はあんまり見ないようにしてるんだけど、でも。

 今日のこれはそれとはまたちょっと違う。やっぱり制服ってところが、うん。すごくいい……。

「ニレ? ニーレ」

 何度か呼ばれて、ぼくははっと我に返って慌てて先輩に謝った。いけないいけない、危うく変態オジサンみたいな思考に、意識を全部乗っ取られるところだった。

 校舎へ続く渡り廊下で向き合うぼくたちの方を、クラスメイトたちが物珍しそうな表情で見ながら通り過ぎていく。特に女子たちの盛り上がりがすごい。「灰崎先輩と喋れるなんて、幽霊くん何者?!」って、ついにはぼくまで注目を浴びてしまっている。

「……ニレはニレなのに」

 相変わらず「幽霊くん」って呼ばれているぼくの現状に気づいて、先輩が形のいい眉を小さくひそめる。

「そんな怖い顔しなくても、大丈夫ですよ」

 先輩にそんな顔をさせてしまったのが申し訳なくて、ぼくは慌てて謝った。だけど正直、心配してもらえるのはけっこう嬉しくて、緩んでしまう口元を隠しきれない。

「……、……」

 そんなぼくを見て、先輩はちょっと困った顔で目を泳がせた。やがて少しの沈黙の後、おもむろに白い手のひらが伸びてきて、ぼくの頭に優しく触れる。

「ニレは、次の授業なに?」
「え……? あ、そういえば自習ですけど」
「じゃあさ、このまま付き合ってよ」

 えっ、と戸惑うぼくの指先を、少し身を屈めた先輩が緩く握ってくる。ぼくは理解が追いつかないまま、先輩に引っ張られるがままに渡り廊下を進む。