その後、ぼくと灰崎先輩はまっすぐ家に帰った。今日は珍しくおばさんが家にいる日で、夕食はチンジャオロースだ。
「そういえば御仁くん、この前の撮影すごくよかったよ」
三人で食卓を囲んでいると、一番大盛りにした白米をぱくぱく食べながらおばさんが言った。それを聞いた灰崎先輩は、ピーマンを口に運びかけていた手を止めてピタリと固まる。
「本当、ですか」
「うんうん。まっちゃんにも写真のデータは共有してるんだけど、別人みたいだってすごくほめてた。御仁くんはやっぱモデル向いてるよ! これからもよろしくね」
「……! ありがとうございます」
灰崎先輩はうっすらと頬を赤くして、照れくさそうにつぶやいて小さく頭を下げた。すいっと視線を逸らした横顔が予想の何倍も嬉しそうで、意外だなってぼくは思う。
先輩はもしかしたら、ぼくが思うよりもずっと、モデルの仕事が好きなのかもしれない。
「それに比べてなぎさは……国語の成績だけよくったって、小説家にはなれないわよ」
「えっ? ぼくべつに、小説家になりたいなんてひと言も言ったことないよ」
「じゃあなんで毎朝毎朝、こんなに何年も書いてるの」
「あれはほんと、ただの趣味だから」
「ふうん?」
おばさんから訝しむような視線を投げられて、ぼくは慌てて、顔の前で両手を振る。
「皆がみんな、おばさんみたいに好きなことを仕事にするわけじゃないんだから」
「あら、そう? でもどっちにしろ、数学の成績はもう少し上げなきゃね」
痛いところを突かれて、ぼくはぐっと言葉に詰まる。おばさんが言ってるのは、先日返却されたばかりの中間テストの結果についてだ。
「ニレって数学苦手なの?」
灰崎先輩にまで突っ込まれてしまい、ぼくはしゅん、と肩を落とした。「数学っていうか、理系科目の成績がイマイチなの。物理とか生物は文理選択でなんとか回避できるけど、数学は避けては通れないでしょ」というおばさんの言葉に、ぐうの音も出ない。
「じゃあ期末テストの前は、俺がみてあげる」
「それは……ありがたいですけど。先輩も自分の受験勉強がありますよね?」
「あるけど、一年の数学くらいならどうってことないから」
淡々とした調子で、当たり前みたいな顔で灰崎先輩はそう言った――やっぱり先輩は、勉強もできるんだなあ。
「そういえば御仁くん、この前の撮影すごくよかったよ」
三人で食卓を囲んでいると、一番大盛りにした白米をぱくぱく食べながらおばさんが言った。それを聞いた灰崎先輩は、ピーマンを口に運びかけていた手を止めてピタリと固まる。
「本当、ですか」
「うんうん。まっちゃんにも写真のデータは共有してるんだけど、別人みたいだってすごくほめてた。御仁くんはやっぱモデル向いてるよ! これからもよろしくね」
「……! ありがとうございます」
灰崎先輩はうっすらと頬を赤くして、照れくさそうにつぶやいて小さく頭を下げた。すいっと視線を逸らした横顔が予想の何倍も嬉しそうで、意外だなってぼくは思う。
先輩はもしかしたら、ぼくが思うよりもずっと、モデルの仕事が好きなのかもしれない。
「それに比べてなぎさは……国語の成績だけよくったって、小説家にはなれないわよ」
「えっ? ぼくべつに、小説家になりたいなんてひと言も言ったことないよ」
「じゃあなんで毎朝毎朝、こんなに何年も書いてるの」
「あれはほんと、ただの趣味だから」
「ふうん?」
おばさんから訝しむような視線を投げられて、ぼくは慌てて、顔の前で両手を振る。
「皆がみんな、おばさんみたいに好きなことを仕事にするわけじゃないんだから」
「あら、そう? でもどっちにしろ、数学の成績はもう少し上げなきゃね」
痛いところを突かれて、ぼくはぐっと言葉に詰まる。おばさんが言ってるのは、先日返却されたばかりの中間テストの結果についてだ。
「ニレって数学苦手なの?」
灰崎先輩にまで突っ込まれてしまい、ぼくはしゅん、と肩を落とした。「数学っていうか、理系科目の成績がイマイチなの。物理とか生物は文理選択でなんとか回避できるけど、数学は避けては通れないでしょ」というおばさんの言葉に、ぐうの音も出ない。
「じゃあ期末テストの前は、俺がみてあげる」
「それは……ありがたいですけど。先輩も自分の受験勉強がありますよね?」
「あるけど、一年の数学くらいならどうってことないから」
淡々とした調子で、当たり前みたいな顔で灰崎先輩はそう言った――やっぱり先輩は、勉強もできるんだなあ。


