淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

 七月に入って梅雨が明けると、太陽の光が力を増すのにあわせて、学校全体もなんだか浮き足立った雰囲気に包まれるようになった。期末試験が迫ってくるのは憂鬱だけど、それさえ乗り越えれば、あとは楽しい夏休みだ。

 休み時間や放課後の教室は、プールに行こうとか夏祭りに行こうとか、そういう話題が飛び交うようになった。「幽霊」のぼくはもちろん、誰ともそんな約束はしないんだけど、皆のワクワクした雰囲気を感じるだけで十分に楽しかった。

(にれ)、楡!」

 灰崎先輩はどこか行くのかな、とか、夏休みはもしかして、今よりももっと家で一緒に過ごせるのかな、とか。

 放課後の教室で、そんな風に妄想をふくらませながら帰り自宅をしていたら、珍しく後ろから名前を呼ばれた。軽く肩まで叩かれて、びっくりして振り返ると、同じクラスの竹下くんがひょいっと廊下の方を指さして口を開いた。

「なんかすげーイケメンの先輩が楡のこと呼んでる」

 竹下くんが示す方に顔を向けて、予想外の光景に「うえっ?」と情けない声をあげてしまう。開け放たれた廊下側の窓枠の向こうで、マスク姿の灰崎先輩がスクールバッグ片手に佇んでいる。

「灰崎先輩! どうしてここに?」

 竹下くんにお礼を言ってから、ぼくは慌てて先輩の方へ駆け寄った。先輩は相変わらず淡々とした表情で、ぼそりと小さくつぶやく。

「迎えにきた。一緒に帰ろうと思って」

 ……えっ?

 高校入学以来初めての出来事に、ぼくはポカンと口を開けて先輩の顔を見上げてしまった。