淡白なロリータ先輩はぼくにだけ柔い

「なぎさ、いつものスタジオに御仁くんの水筒届けてくんない?」

 おばさんからそんな風に声をかけられたのは、その次の週の日曜日、午前十時頃だった。

「今日秋物のカタログ撮影なのよ。私も後から行くんだけど、その前に事務所でどうしても確認しなきゃいけない資料があって。それと御仁くん、今朝ちょっと様子おかしかったのよね」

 え? とぼくが問い返すと、おばさんは玄関で靴を履きながらこちらを振り向いた。

「今回からメイン担当のカメラマンさんが変わるんだけど。その話したらなんか……若干目が泳いでたっていうか。相変わらず淡々としてるから気のせいかなって思ったけど、いつもは絶対に忘れない水筒置いていっちゃうし」

 様子見がてら、お願い!

 ぱちんっ、と手をあわせて、おばさんは家を出ていった。

 残されたぼくはポカンと口を開けてその場に立ち尽くした。だけどそのうち、じわじわと言われた意味を理解して、「それって一大事じゃん!」って気づいた。

 先輩、知らない人無理って言ってたのに!

 忘れ物までするなんて、絶対動揺してるよね……?

 ダイニングの机に視線を移すと、ステンレス製の水筒が置きっぱなしになっていた。

 慌ててそれを引っ掴んだぼくは、最低限の身支度だけ整えて家を飛び出す。