残念なお知らせ。俺、来週転校するらしい。

 (陽翔side)


 電車が発車したあと、風が冷たかった。
織の乗った車両が小さくなっていく。見えなくなるまで、ずっと手を振ってた。

 けど、あいつがいなくなったホームは、思ってたよりも静かで、思ってた以上に寂しかった。
 
気づいたら、呼吸が詰まってた。声を押し殺したつもりなのに、嗚咽が勝手にこぼれた。

「……織……っ、おり……!」

返事なんてないのに、名前を呼ぶしかなかった。
 
誰もいないホームに、その音だけが響いて、すぐに消えた。

(……ほんとに、行っちゃった……)


 その日の夜。部屋の中は静かすぎて、スマホの明かりだけが眩しかった。

机の上には、織が使ってたシャーペンと、
ふざけて撮ったプリクラと自撮りが入ったフォトフレーム。

「……織」
つい口に出た。
言葉にしていない「会いたい」が、喉の奥で暴れた。
 
でも、怒ってるわけじゃなかった。
むしろ、どうしようもなく恋しくて、名前を呼ぶしかなかった。

 スマホの画面を見ても、返事はなくて。
その沈黙が、思ってたより重かった。
 

 最初に好きになったのがいつだったか。
ちゃんとは覚えてない。

ただ、気づけば目で追ってた。
無意識のうちに探してた。
 
でも、あいつが笑った瞬間の空気とか、寝ぼけた顔とか、教室で誰かの冗談に笑う声とか。

全部、俺の中では『特別扱い』になってた。同じ景色を見てるだけで、それだけで一日が良くなった。
 
それに気づいたのは中学のとき。気づいたときにはもう、どうしようもなかった。それでも止めようなんて、一度も思わなかった。
 
転校が決まったって聞いた日、本気で頭が真っ白になった。

「なんで」とか「やだ」とか、口に出したら全部子どもみたいで、結局言えなかった。

でも、言わなきゃ絶対後悔すると思ったから、あの公園で『好きだ』って言った。

練習も計画もなくて、ただ、言葉が溢れただけ。

「もう手離したくない」って、本音のまま言った。
言葉にした瞬間、胸の中に刺さってた棘が少し抜けた気がした。
 
あのとき、織が目を見開いて固まったの、今でも覚えてる。

でも、驚かれても、拒まれても、それでもよかった。
伝えたかった。

(俺は織がどんな顔しても、お前のこと好きなんだって。)



 転校してからの一週間。朝起きても、メッセージを開いても、何かが足りない。それに、思ったよりも遠距離レンアイってキツイ。
たった一週間でわかった。

 勉強してても、外歩いてても、織の声で『陽翔』って呼ぶ声が耳の中で鳴る。
声が聞こえた気がして、何度も振り返った。

 でも、会えない間に、俺の中で決まったことがある。
会えない時間が、逆に覚悟を育てた。

――俺、あいつのとこ行く。

同じ大学とか、同じ道とかなんでもいい。
どんな距離があっても、もう離れないって決めた。


夜の窓の外に、街の灯りがぼんやり見える。

画面を開いて、既読のついていないメッセージを見つめた。

(二回のトントンが、まだ手の甲に残ってる気がする。)
 
『また明日』

織が最後に言った言葉。

それだけで、まだ繋がってる気がした。
あの約束が、今も心の中にいる。

「織、待ってろよ」



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あとがき

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
本作は第一部として完結しています。

現在、続編(長編版)を執筆中です。
転校後のすれ違い、大学での再会、
そしてふたりの「その先」まで描く予定です。

『ここから先の俺たちは、もっとうるさくて、もっと甘い。
陽翔はさらにバグるし、
俺もきっとツンデレ迷子のまま』

続きも楽しみにしていただけたら嬉しいです。