(陽翔side)


 電車が発車したあと、風がやけに冷たかった。
織の乗った車両が小さくなっていく。
見えなくなるまで、ずっと手を振ってた。

けど、あいつがいなくなったホームは、
思ってたよりも静かで、
思ってた以上に寂しかった。
 
気づいたら、呼吸が詰まってた。
声を押し殺したつもりなのに、嗚咽が勝手にこぼれた。

「……おり……っ、織……!」

返事なんてないのに、名前を呼ぶしかなかった。
 
誰もいないホームに、
その音だけが落ちて、すぐに消えた。

(……ほんとに、行っちゃった……)


 その日の夜。
部屋の中は静かすぎて、スマホの明かりだけが眩しかった。

机の上には、
織が使ってたシャーペンと、
ふざけて撮ったプリクラと自撮りが入ったフォトフレーム。

「……織」
つい口に出た。
言葉にしていない「会いたい」が、喉の奥で暴れた。
 
でも、怒ってるわけじゃなかった。
むしろ、
どうしようもなく恋しくて、
名前を呼ぶしかなかった。

 スマホの画面を見ても、返事はなくて。
その沈黙が、思ってたより重かった。
 

 最初に好きになったのがいつだったか。
ちゃんとは覚えてない。

ただ、気づけば目で追ってた。
無意識のうちに“探してた”
 
でも、あいつが笑った瞬間の空気とか、
寝ぼけた顔とか、教室で誰かの冗談に笑う声とか。

全部、
俺の中では“特別扱い”になってた。
同じ景色を見てるだけで、それだけで一日が良くなった。
 
それに気づいたのは中学のとき。
気づいたときにはもう、どうしようもなかった。
それでも止めようなんて、一度も思わなかった。
 
転校が決まったって聞いた日、
本気で頭が真っ白になった。

「なんで」とか「やだ」とか、
口に出したら全部子どもみたいで、結局言えなかった。

でも、
言わなきゃ絶対後悔すると思ったから、あの公園で“好きだ”って言った。

練習も計画もなくて、
ただ、言葉が溢れただけ。

「もう手離したくない」って、本音のまま言った。
言葉にした瞬間、
胸の中に刺さってた棘が少し抜けた気がした。
 
あのとき、
織が目を見開いて固まったの、
今でも覚えてる。

でも、驚かれても、拒まれても、
それでもよかった。
伝えたかった。

(俺は織がどんな顔しても、お前のこと好きなんだって。)



 転校してからの一週間。
朝起きても、メッセージを開いても、何かが足りない。

 勉強してても、外歩いてても、
織の声で“陽翔”って呼ぶ声が耳の中で鳴る。
声が聞こえた気がして、何度も振り返った。

 でも、会えない間に、
俺の中で決まったことがある。

会えない時間が、逆に覚悟を育てた。

――俺、あいつのとこ行く。

同じ大学とか、同じ道。
どんな距離があっても、
もう離れないって決めた。


夜の窓の外に、街の灯りがぼんやり見える。

画面を開いて、
既読のついていないメッセージを見つめた。

(二回の“トントン”が、まだ手の甲に残ってる気がする。)
 
「また明日」

あいつが最後に言った言葉。

それだけで、まだ繋がってる気がした。
あの約束が、今も心の中にいる。

「織、待ってろよ」



残念なお知らせ。
織との物語、ここからが本番説、濃厚らしい。



↓↓↓↓
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
現在、続編(長編版)を加筆中です。

長編版では、転校後のすれ違い・大学、甘い生活まで全部描きます。

「ここから先の俺たちは、もっと騒がしくて、もっと甘い。
陽翔はさらにバグるし、
俺もたぶんツンデレ迷子のまま。」


続き、楽しみにしててくれたら嬉しいです!