〜〜〜波〜〜〜


pm4:00 〜〜現在〜〜


 毎日の暑さが何故か落ち着き、外を歩いても汗が出ないくらい。さっきの都会より慣れた潮風が気持ち良い。
電車を降りて、海沿いの道。仁兄の手を引いて先を進む。もうお互い会話も必要無かった。

 店に着いて、2階へ。
部屋に入ってすぐ仁兄を身体ごと引き寄せた。
まだ靴も脱げてないけど、玄関で立ったまま、仁兄の顔を両手で包み、口付ける。

電車での衝動も抑え、ここへ来るまでずっと我慢して…やっと。
何年も我慢して、やっと…自分の手に力が入らないくらい緊張してしまった。震える手。どうしよう。
おでこを合わせ、間近で仁兄を見つめる。
目が合い、仁兄の瞳が揺れる。
震える手で仁兄のシャツをめくり、素肌に触れる為に手を入れる。
キスをしながら俺が靴を脱ぐと仁兄も脱いでくれた。
キスはやめれないし、夢中になると手の震えは無くなった。しっかり腰を抱きながら床に2人崩れた。


 小さな部屋の小さなベッド。狭いベッドだけれどマットレスの高さぐらいしかないので床と一体感があるからあまり狭さを感じない。…仁兄とくっ付いているから十分な広さだ。

「……仁兄の事、
いつから恋愛対象として見て来たかわからない」

何度も達し、仁兄は裸のまま力尽きて横になってる。
俺も裸のままだけど外から見られない範囲で窓を開け、潮風を感じながら海を眺めた。
…穏やかな波。サーフィンには適さないけど見てる分には1番。入りたいと思わず、落ち着いて眺めてられる。


 外はやっと夕焼けの空で薄暗くなる手前、紫やピンクが広がってくる。

「…いつからだか分からないけど
ずっと一緒にいたいと思ってたし、ずっと好きだった。
…仁兄は身内の愛情って決めつけてたけど、
俺は愛情を分類できない…
今は、ずっと抱いてたいくらい好き」

全然カッコよく告白仕返せなかった。
しかも行為の方が先になってしまった。

「…グウとは…自分の一部みたいに距離が近過ぎて…
けどキスとか我慢出来なくて。
僕も分類出来てなかったし…
いつからだかわからないけど、
前から恋愛対象だと思ってた」

「……一緒…かな…あ、ねぇ、あの箱、
俺が前貰ったプレゼントと一緒…………何でもない」

3年前に仁兄から貰ったピアス、今もずっと付けてる。
その時と同じ包装の箱が棚の奥に見えて、少し嬉しくなって話したけど…あんなの、他の誰かと何か意味がある可能性が高い…別に話題にするほどの物じゃない…視線をまた空に移した。

「…ピアス、ずっと付けてくれてるね。
失くさないで….凄い。
あの箱も、実はピアスと一緒に渡すつもりだったんだ。
中見てみようか?錆びてたりして…」

裸のまま、鈍い動きで箱を手にし、包装を開け中身を出した。新品の様な輝きで光るシンプルなネックレス。

「……いる?」

「俺に選んだやつなら当然、欲しい」

仁兄の優しい顔が笑い声と共に、更に優しい笑顔になる。

「…なんで俺よりくれる方が笑顔なの…
ふふっ早速つける。
…どう?貢がれてる年下彼氏だね。」

「…ああ、けど僕は
高校生にタダ働きさせてる店主だけどね」

「……いつでも手伝うよ。
けど…仁兄に見合う男にならなきゃ。
大会でどれだけ優勝できるか…
大学にもキチンと通って…
サーフィンと両立できる仕事を探す」

「戻って来るって言ってくれたら、ここで待ってるよ」

「俺は何処にも行かない。
大学通っても、ここで海に入るし、毎日仁兄に会う」

「…毎日はいいよ…」

ベットに座る仁兄と笑顔で会話しながら、キスをする為に、距離を詰める。

俺の髪が後ろからの風で仁兄の顔に当たり、仁兄は目を閉じた。俺とのキスで暫く…まだ目は閉じたまま。




 大会の終盤。
得点の高い優勝候補の1人と、俺とで同時に海に入る。
どれだけ彼より点数が取れるか。
同じじゃ優勝出来ない。
彼よりも良い波を選びたいけど、タイミングにもよる。
俺の技が出せる波であればいい。
出来る限りの技で、点数を取れれば勝てる。

会場のアナウンスが最後に俺の名前と点数を発表すると、全体から歓声と拍手が俺に向けられる。
手を挙げ、頭をさげ、胸に手を当てる。

良かった。とりあえず、この夏の第1目標が達成できた。
しかも、俺より俺のサーフィンを信じて、俺より喜んでくれる人が近くにいてくれる。

「グウっ!!おめでとう!!
すごいっ!お前やっぱりすごい!」

俺に駆け寄って来た仁兄。
俺より笑顔だし、喜んでくれる。

「ありがと。…まさか泣いて無いよね?
そのサングラスはモデルだから?」

「そう。写真撮られないようにね!
あ、写メ!テッテミミーに送らないと!」

「え?それこそ何か使われそうじゃない?」

「…だね。じゃあ送らない!けど写真!」

はしゃぐ仁兄を見て俺も嬉しくなる。

…これから目標は達成出来ないかも。
プロに混じって戦う大会で優勝する事、どれだけ大変な事か分かってる。

来年も今より調子良いとは限らない。
けど仁兄は信じてくれる。
だから自信を持って夢を追いかけて…努力できる。
恥ずかしくない。
オリンピック。出れても、出れなくても。

これからは、ずっと仁兄と一緒。





〜〜〜12年前〜〜〜


「ジイ!なみたのしい?」

父と海から上がって、砂浜のグウの所へ戻った。

「ああ、波、楽しいよ。波に乗るのが面白いんだよ。
簡単には立てないんだよ?危ないし」

夏の日。お母さん達も遊びに来てる側で、僕とグウのお父さんも休んでる。

「ぼくものりたい!」

「うん、お父さんに聞いてみよ。僕が教えてあげる。
その代わり、ジイじゃなくてジンニイ!」

「じぃー!」

「仁兄!」

「……じんに…」

チュッ。

「じんにい!」

可愛すぎてグウの頬にキスをした。

「じんにぃ!おとなになっても
この、おみせさんごっこのつづきしたい!」

「あー、砂コーヒーの店ね。
いいよー、多分グウがしないと思うけど…
お店の名前は何にしよーかー?」

「なみ!じんにぃがすきな、なみ!」

「なみねー、なみってねー、英語で
ウェーブっていうんだよー」

「ウェーブー!」


 砂浜で砂遊び。何をして遊んでも楽しかった日々。
僕の1番古い…2人の夏の思い出。





〜〜〜〜エピローグ〜〜〜〜

 仁兄の部屋。二階から眺める暗くしっとりとした海。クーラーを止めて、窓からの風を感じる。もうすぐ8月が終わる。

 夏休み中、サーフィンで出せた成果は高校生のみの大会で優勝、プロを含めた大会で入賞。
…これから海外の大会にも出て結果を出していきたい。

大会の為の遠征や海に入ってる時間以外は殆ど仁兄の店で過ごした。今までで一番一緒にいた夏だと思う。
開店中、手伝う時はエプロンをして動き、暇な時は宿題やったり筋トレしたり仁兄とふざけ合ったりイチャイチャしたり…。
そして閉店後は2人で二階へ。
どっぷり仁兄にハマってる。

今も仁兄のシングルサイズのベットで2人裸のまま。
今日もこのまま寝て、夜明け前帰ろうかな。
そして明朝いつも通り海に入ろう。

うつ伏せで少し逆を向いている、仁兄の寝顔は見えない状態。
…まだ寝てないかな?最近、首や肩がこるって言ってた。首に手を伸ばして、肩にかけてマッサージをする。ただ触ってたいだけでもあるけど。

「……気持ちイイ……」

「あ、起きてた?」

「…んー…半分寝てた…
…グウが僕の体力を奪ってく……」

「そんな事言ったって…
…こんなに毎日の様にがっつくのは
仁兄のせいでもあるよ。
わかる?なんで仁兄のせいか。
教えてあげようか?仁兄がどんなか」

「………」

「仁兄?」

「うるさい!もう僕は寝た!おやすみ!」

「…え、話してるし…
…じんにーい……仁兄?じーん…」

「……」

首をさっきより強く揉んでも仁兄の顔が見えない状態が続く。返事もしてくれない。これは拗ねてるな…。

「何で…?恥ずかしいの?…ねぇ…こっち向いて?」

耳元まで近づいて、囁くように言ってみる。

ゆっくり動く頭。薄暗い部屋の中、空いてるカーテンの隙間から月灯り。
多分顔を少し赤らめて、瞳も潤んでるはず。
おでこをくっつけて見つめると、…やっぱり瞳が潤んで光が反射した。

「…しょうがないだろ…」

「うん、嬉しい。俺だって、しょうがないでしょ…?」

「……まえもって言っとくけど、
今日はもうこれ以上無理だからね?!
けど……キスするよ…?」

近くで見つめてた顔が、もっと近くに…仁兄から、柔らかなキス。

少しして唇が離れた事で名残惜しさを感じる俺の目の前に、仁兄の顔じゃなくて、小さな箱。
…キレイに包装された…

「…朝、渡そうと思ったけど…日付変わるし…
誕生日おめでとう。1つ僕に近づいたね」

「……あ、え?あーー誕生日!
土日で明日から学校じゃないから
すっかり忘れてた!そうだ!誕生日!
しかもそのセリフ!
1つ僕に近づいたねって…
いつも仁兄言ってたやつ!」

嬉しくてつい大きな声になる。

「…はい。あげるけど…つけなくてもいいから」

「…何で?つけるに決まってるじゃん」

ドキドキしながらリボンを解き…中を見るとシンプルなリングだった。薬指にはめたら…ちょうど…。

「ぴったりですけど」

「…だね」

恥ずかしそうに照れながら笑う仁兄。

「…いつからか、貰わないのが
当たり前になってたし…
昔から俺、大したのあげてないね。
…ホント貰ってばっかりでゴメン…」

「グウからは色々貰ってるから…
店も手伝って貰ってるし…」

「…それはただ仁兄といたいから」

「そーいう事だよ。ほんと、色々貰ってる。
グウは僕に必要な完璧な人。
小さい頃から…そしてこれからも…
こうなるなんて、最初から諦めてたのに…
一緒に過ごしてくれる事がグウからのギフト
……前、僕の記憶力とか言ってたけど…
多分、僕の方がグウとの思い出、沢山だよ。
……店の名前、何でWAVEにしたか知ってる?」

「……知らない。教えて?
何でベタなWAVEなんて名前に…」

「ふふっ…教えてあげない」

「え?俺と関係あるの?教えてよ」

「どうしようかなー…」

気になる。どうやって口を割らせよう。

そりゃ小さい頃から一緒で、僕なんて昔の記憶を辿ったら全てに仁兄がいたって言っても過言じゃない。
物心ついてすぐの事なんて、忘れてる事、そりゃあるだろう。

イタズラに微笑む仁兄。
…そんな顔で、もう……我慢してるのに…
これ以上は無理だって言われるのはわかる。
それくらい抱いた。
…とまらない。けど今日はこのまま…

仁兄の唇はいつもより腫れてるかも。
またキスをしたくて、優しく…頬や鼻、顔中に唇を這わせる。
仁兄の素肌に俺の素肌をすり寄せる。
こんなに幸せを感じられる。

…このまま寝よう。
身体も1つになったみたいに。
…仁兄が吐いた息を吸い込み…俺と仁兄の呼吸が混ざり合う。

どんなに一緒にいても、どんなにくっついても、…当たり前に心地良い人と。

嫌いだった季節も…季節を問わず、この先も、波の音が聴こえる ここで。