「ひどいこと……とは? 再婚しないでと泣いたことか?」

 我が家の詳しい事情を知らないジェイドさんは、不思議そうな表情になっていた。

「だって……父はアスティ公爵なので、再婚して正当な血統と言える男の子をつくるように、各方面から強い圧を掛けられていると思うんです……それは、私の言葉のために全部つっぱねて。成長して色々とわかるようになってから、再婚しても良いよと言っても、父は笑って首を振るばかりで。男児が居なければ、権力争いの火種になってしまうのに……」

 それは、私にとっては大きな後悔だった。

 幼い頃の可愛い我が儘で済ませるには、あまりにも、父への負担が大きすぎて。

「父上は……ラヴィ二アのことを、それほど愛しているということだろう」

「そうなんですよね。だから、出来るならば聖女なんて辞めて、帰ってあげなきゃって! 王子様と結婚して、大きな顔させてあげたい! って、そう思って……別に父から、何かを望まれたわけでもないんですけど」

 そうしたいと、私が勝手に思っているだけだ。

 私を産んたことで母は亡くなってしまい、幼い頃の我が儘のせいで再婚も出来ない。愛する父を不幸にしてばかりだったから。

 だから、どうにかして、普通の貴族令嬢に戻りたかった。

 とは言え、天啓持ちは生まれた瞬間に、教会にて聖女になる定め。通常の|やり方(ルート)では戻れないので、教皇の出した難題(ジェイドさんのこと)を解決するほかなかったのだから。