ジェイドさんは私が何を言いたいかわからなかったのだろう、焚き火をじっと見ていた顔を上げた。
彼の家ではそうだった通り、跡継ぎたる嫡男と、その予備(スペア)である次男。本来であれば、男の子二人を産むまでが貴族の当主に嫁いだ貴婦人としての役目とされているものなのだ。
確かに私は父と母の子で、その血を繋ぐためには婿を迎え入れるか……王家へ嫁ぎ王子妃となり、そこで生んだ子の一人に、アスティ公爵家を譲るか。
兄も弟も居ない私の選択肢は、ふたつにひとつ。
「私……実は幼い頃に久しぶりに会った父に、再婚しないでと縋り付き泣いてしまったことがあるんです。私には父一人しか居ないのに、このままでは誰かに取られてしまうかもしれないと思ったんでしょうね……今思うと、まだ若かった父に、ひどいことをしてしまいました」
……そうなのだ。私は聖女となるために教育を受けるため、幼い頃から教会へと入れられた。
家族に会える時間は、ひと月に一回の面会日のみ。
父は欠かさずに、私に会いに来てくれた。季節毎の可愛いドレス、王都で評判の美味しいお菓子。そんな贈り物を、いっぱい携えて。



