「ジェイドさん……お気持ちはわかります。けれど、今は何処に行けば良いのかさえ、私たちは絞れていません。竜の元へ行くならば、そこを明確にしてからになります。もう少しだけ、どうか待ってください。今は洞窟の中に居ること、無事であること、そして、ジェイドさんを拒否して来ないという事がわかっただけでも、良しとしてください」

 私はその瞬間、ジェイドさんの頬を通り抜けた一粒の涙を見て、目を見開いてしまった。

 成人した男性が人前で泣いてはいけないという法律は存在しないのだけど、あまり見たことがない光景であるのは事実だったから。

「……良かった。ゲイボルグ」

 ああ……これまでの複雑な思いが極まって、つい涙を流してしまったのね。

 私はそんな彼を見ていて、胸が痛かった。ジェイドさんはこれまでに、あまり自身の感情を見せることはなかった。

 ただ、竜が無事で自分を拒否しているわけではないと、わかっただけなのに……。

 それに、今まで口にすることを避けていた彼の竜はゲイボルグと言うのね。すごく良い名前。

「はい。そうなんです。ジェイドさん。大丈夫です。居場所さえ絞れば、あの竜が洞窟で迷って出られなくなったなら、助けに行けば済むだけのはずです。さっき見えた国旗で国名はわかりましたから、あとはその国にある洞窟で似ているものを見付けます」

「わかった」

 言葉少なになったジェイドさんは手の甲で涙を拭うと、私が図書室から持って来た一冊の古い本へと目を向けた。