そこでまた寂しげな目をした彼女は、貴族令嬢らしく綺麗なカーテシーをしてから、無言で去って行った。

 彼女の細い背中を見送り、なんだかしんみりした気持ちになる。

 ナタリアさんは、婚約していたジェイドさんのこと、よっぽど……好きだったんだろうなぁ。少ししか知らないけれど、良い男だものね。

 だから、関係が終わってしまった今も、こうしてジェイドさんの次の女になりそうな私に、呪いの言葉を吐きに来たり……女の熱い情念を感じる。

 そのくらい……彼のことが、好きだったってことだよね。今はもう次の人が居ても、ナタリアさんはなおも昇華しきれない思いを抱えている。

 もし、恋愛感情だけでのいざこざなら、彼女もここまで苦しんでいなかったかもしれない。

 『竜が来ない』なんて、二人だけではどうにも解消しようのない問題を抱えていたものね。

 けれど、残念ながら……聖女辞めたいが最優先の私は、ジェイドさんとは恋には落ちないから……それには、何の意味もないんだけどね。