向かった先に居た背の高い紳士が彼女に話し掛けたようなので、きっとあれが、もうすぐナタリアさんと婚約する予定という男性だろう。

 ……その時、隣に居たジェイドさんがおもむろに歩き出したので、私は慌てて後を追った。

 ひとけの居ない場所を選んで歩いているのか、彼は夜の庭園へと辿り付いた。今夜は雲もなく、綺麗な三日月が空で輝いていた。

 ジェイドさんは黙ったままで、池のほとりにあるベンチへと腰掛けた。

 私もなりゆきで、とりあえず彼の隣に座った。

 少し落ち着けばジェイドさんも、話し始めるかもしれないという儚い望みを抱いて。

 しかし、うんともすんとも言い出さない。しばらく続く沈黙の中で気詰まりになってしまった私は、なんとか明るく話し出した。

「ほらほら。私の方が良い女ですよ。あの人より、身分だって高いですし! 公爵令嬢ですよ。どうです。それに、この胸の大きさを見てください!」

 私はやぶれかぶれになってこう言った。生まれ持っての身分と、胸の大きさしか彼女から勝っていると思えなかったことがバレバレになってしまったけれど!