夕方会った時に泣いていたゲイボルグが気になる。あの子はあまり目立つわけにもいかないし、今も一匹で留守番をするしかないし、もう一度会ってから……部屋に戻ろうかな。

 私はそう思って、城の廊下を歩き出した。

 遠くに見えるかがり火の光、夏の夜の匂い、遠くから聞こえて来る宴会の音。

 ああ……辺境で住んで居た頃の、お祭りの夜を思い出す。

「……ラヴィ二ア」

 背後から不意に声を掛けられて、私は慌てて振り向いた。

「ジェイドさん……? あの、どうして?」

 そこに居たのは、今夜の主役であるはずのジェイドさんだ。大分お酒がまわっているのか、なんだか目が据わっているように見える。

 あれだけ飲まされたというのに、まだ潰れていないということは、お酒に強いのかもしれない。

「俺は……いつラヴィ二アの父上に、ご紹介願えるんだ?」

「え?」

 私は酔っ払いジェイドさんの唐突な言葉の意味がわからなくて、目を瞬かせた。

 ……何? 私のお父様に? なんで?

「未来の公爵になるのならば、そうこうしてはいられまい」

 ……え? 待って。この人、私と結婚する話をしているの……?