「これは緊急事態による特別処置で、私もこれで以後の自由を手に入れます。ですから、その後の報酬を思えば、安いものなんですよ」

 胸のリボンを解きながら、私がもう一歩近付けば、彼はバッと両手を挙げて牽制した。

「ま、待ってくれ! 今ここですぐには、それは無理だ! ……心の準備の時間が欲しい」

 その時のジェイドさんの整った顔に浮かんだ表情は、完全に焦っていた。

 私は事前に考えそうしようと覚悟し、そうするしかないと決意し、ここまでやって来たわけだけれども、彼はほんの少し前に聞かされたばかり。

 時間が必要と言われれば、それはそうなのかもしれない。

 私だけの判断ではいかない。先方の同意がなければ、これってただの犯罪行為にあたるし……。

「え? あ、はい……わかりました。心の準備の方を整えていただいて大丈夫です。どうぞ」

 私はとりあえず解いていたリボンを結び直し、ジェイドさんの真向かいにある椅子へと腰掛けた……いけない。

 今、気が付いてしまったけれど、私挨拶してから要件しか話していなくて、落ち着いて雑談する時間も取っていないわ。