記憶を取り戻した私は、これはあまり良くない転生先だと、まずは大きくため息をついた。

 なんだか、誰もが初めましてをしても、どこかで聞いたことのある名前だなと思っていたけど、私ったらアニメ化までされた超長編小説の脇役に転生していたのだった。

 私自身の前世のことは、なぜか記憶がもやがかかったようになり、判然としない。幸せではなかったような気がする。こうして、転生しても記憶に蓋をしたくなるくらい。

 せっかく生まれ変われたなら、幸せになりたいと思った。

 そして、私はそれ以来、猛然と薬師としての勉強を始めて、同世代の子たちと遊ばなくなった。

 なぜかと言うと、勇者レックスの幼馴染役であるデルフィーヌには、魔法薬師としての物語上とある重要な役割があった。

 彼女は冒険に旅立つ幼馴染みレックスたちをこころよく送り出した後、いつか戦闘職のレックスを自分が助けたい一心で魔法薬師になり、なんと皮肉なことに、それを使って彼女の恋のライバルである聖女エレオノールの命を救うことになるのだ。