Excalibur

 ガシャアンッ! 硝子が割れるド派手な破砕音が校庭に反響した。
「わぁっッつ?」
「何事なのネ?」
「ほッ健室だッ」
 ざわわ――。騒然と色めき立つ青凛校内。早速野郎どもが群がる。
 リーゼント・スネオヘアー・モヒカン頭、スキンヘッドが集った。
「ッしゃぁあッ! いてまえやゴルァあッ!」
「ヤれンのかッ! ぁあッ! どないじゃ!」
「そりゃヤれンしょ? ヤりましょおよおッ」
 ギャはは――ッ! 血気盛んな不良どもが下卑た笑い声を立てる。
 爆笑の渦に包まれる学校内は、お世辞にも風紀が良いとは程遠い。
「チィッ、煩せぇ連中が集まってきゃがった」
「ちょ待てぇいっ! 何処へ逃げる卑怯者!」
「何処って、お前が追いかけてくるからだろ」
 ダダ――ッ。追い縋るレディを振り切るべく、廊下を奔るジュン。
「待てぇィ、待たンかァいっ!」
 ボィィンッ!!
 Fカップを揺らしながら、ビキニ姿の半裸の美女が追走してくる。
「……ひィッ」
 肩越しにチラ見して背筋を冷やすジュン。絶対に捕まりたくない。
 あの形相ときた。捕まれば半殺し。プランクトンの餌もあり得る。



「せ、……聖子先生だっ」
 パァ――ッ。ほとばしる白い歯。眼鏡の奥が、邪な輝きを放った。
 廊下でオタ芸を強いられていた虐められっ子が、眼鏡を光らせる。
「ッ!? すまほだ、……スマホの時間だぁああーーーッ!!」
 背負ったオタリュックから痛スマホをひったくると、眼前に翳す。
「心に残したい、とっておきの瞬間を、……Pモードで……っ」
 パシャパシャ――ッ。
 四方でフラッシュが光る昼下がりの廊下内で追走撃が展開される。
「待ったンかィやあっ!」
「ひ、……ひぃッ!」
 小剣を振り回し、鬼面の相の女が髪を振り乱して男子高生を襲う?
 およそ現実とは程遠い異常事態を前に青ざめる用務員のオッサン。
「な、……何事じゃ……?」
「せ、……聖子先生っ!?」
「そんな、馬鹿な事が……」
 わぁああああ――……。
 湧き立つ喚声。事態を察した教員達が飛び出し、駆け付けてくる。
「そんな馬鹿な、……あの理知的な憧れの聖子先生が……ッ?」
「ぅ、ぐぅうッ! こんな……こんな事があっていいのかッ!」
 ドンッ! 感極まって壁ドンを始める熱血体育教師の恩田保――。
「保っちゃん! ンな事やっとらんで、早よぉ鎮めなはれやっ」
「んな事言われましても、……どう納まりつけりゃいいんスか」
 温厚な爺さん教諭に諭されるも、迫り上がる怒りに我を保てない。
「そんなもんっ、あんた等の問題やさかい……って、ぇえエ?」
「――おぉおおおッ!!」
 ――ドンドンドンッ! 加速する壁ドン。両の拳からは出血――。

 ダダダ――……。眼前に迫りくる階段を前に、ジュンの眼が光る。
「――ッ!」
 ふわりっ、……――ダンダンッ!
 軽やかに宙に舞い上がったジュンの靴底が、床面を踏み鳴らした。
 ――ドンッ! 豪快な振動を伴い、身を屈めたレディが着地する。
「おらぁジュンっ、待たんかいゃあっ!」
「だからッ! 待てるわきゃねーだろッ」
 ダダダ――ッ。校内所狭しと展開されるチェイス劇に学生も興奮。
 ぎゃははッ! 女子生徒そっちのけでヒートアップする男子学生。
「おい見ろやッ! ありゃ聖子先生だぜッ! ひゃっはーッ!」
「来いやぁ! 聖子先生がストリーキングやってンぞぉおッ!」
「白昼堂々の度胸試したぁ、やっぱ俺らが見込んだ先生だぜッ」
「かっけえーッ! やっぱ聖子先生っきゃねえッ 最ッ高ォ!」
 ドッ、ぎゃははは――……。悪乗りが炸裂する休憩時の青凛高校。
「ぅ……、うち等ど~しよっかぁ~」
「しっ。他人のフリだよ、里佳子っ」
「巻き込まれたら負けよ、負けっ!」
 乱痴気騒ぎを前に、互いに牽制、だんまりを決め込む風紀委員達。