
プシュゥゥ――……ガタンガタン――……。
レトロ音源が昔懐かしのプラットフォームを演出するコンコース。
磨かれたタイル張りの構内の中央では、AIビークルが停車中だ。
「しかし、……サンダーが使えねェって事ンなると……」
残るは少女隊だ。大天使界の男手となると後はジュンのみとなる。
「ぅーむ……」
ある意味嬉しい事の様な気もしないでもない。ただ現実は厳しい。
似た状況は過去に何度も経験済みで、負担が増えた記憶しかない。
「つー事は、ンだよ……厄介事は、……全部俺任せに?」
「時にはつらい局面も一緒に乗り越えてきたじゃない?」
ホログラム上の小型ミシェットがコケティッシュな笑顔を見せる。
「力を合わせて、困難を乗り越えてきた仲間じゃないの」
「あー。ミシェットズルい。こういう時だけズルいよ?」
何事か察したコズエが、口を尖らせ何やら咄嗟に物言いをつけた。
「何がズルいの? 貴女も良く猫撫で声を出すじゃない」
「はぁ?」
毅然たるミシェットの反駁。コズエの両頬がたちまち紅くなった。
「……俺を消そうとした癖に、どの面下げてゆーんだよ」
「でもまぁ確かにミシェットにあたっても仕方がないわ」
ぼやくジュンを視かねてか否か、コズエがフォローを差し挟んだ。
「それに、仲間の負傷を我関せずで済ますつもりなの?」
「サンダーが言っていたわ。ジュン。貴方は優秀だって」
「……お前ら……」
ジュンは苛立ちを懸命に抑える。連携プレーにぐぅの根も出ない。
「……ぐぅ~……」
ずっしりと圧し掛かるカミュ。背中のいびきが一段音量を増した。

だが、――あの老獪な策士のサンダーを打ち負かす程の手練れだ。
気を引き締めてかかる必要がある。ただ、情報量が不足していた。
「……」
兎に角今は少しでも情報が欲しい。何か手掛かりでもあれば――。
「なぁミシェット。その飛行物体とやらは、……生命体なのか?」
「だから生体反応は無かったの。ただxバンドには掛かっている」
「……xバンドか……」
指向特性の高いSHF帯の周波数。盗聴やジャミングを避け易い。
減衰に強く秘匿性に優れ広域を担う。衛星間では特に重用される。
「だから私が最初に列挙した様に、光学迷彩処理か或いは、――」
「天道衛星デクスター群のハイビジョンカメラには映ってないわ」
コズエの推論を後押しするかの様にして、ミシェットが明言した。
「デクスター群か……。それにすら映ってねえってェ事はだ……」
高度三万六千M上空の静止軌道上を群泳する天道衛星デクスター。
宇宙領域把握を主眼に監視衛星及び高出力搭載型攻撃衛星で構成。
「……ッ」
しかし可能なのだろうか。マイクロ波の海原を掻い潜る事が――。
「……数十基もの衛星間レーダー網を潜り、サンダーを墜とす?」
閉口するジュン。有り得ない芸当ではあるが可能性はなくはない。
俄には信じ難い技巧を要するが、手練れのハッカーであれば――?
「特殊なドローン……か? 人間が犯人の可能性も考えないとな」
「……人間? ……ジュン。それって、貴方本気で言ってるの?」
「……俺にも詳しくは良く解ンねェが、……考え得るだろぉよ?」
「確率は限りなく低いけれどね。可能性は決してゼロじゃないわ」
否認の意を示すミシェットに相反し、コズエがジュンを支持する。



