
「で、……俺に要件って何だよ?」
「その事でコズエをよこしたのだけど。本題に入るわね」
半ば苛立った口調のジュンの声音に、ミシェットは泰然と応える。
「未来軸を変えた『何者かの行方』を追って欲しいのよ」
「俺に犯人を追えって? あのな、俺は適任じゃねェよ」
「『貴方だけに』頼んでいる訳じゃない。理解るわね?」
「……カミュにも、協力して貰うってか」
「……ぐぅ~……」
いびきが大きくなった。
「無理にとは言わないけれど。協力の要請って所かしら」
「あのな、俺を消し去ろうとしといて、虫が良過ぎだろ」
「だから中止した、てさっきから言っているでしょう?」
泰然自若としていたミシェットが、細い眉をピクリとつり上げた。
心なしか声のトーンも若干大きく投げやりになってきている様子。
「貴方はこうして私とガジェット通信が出来ているよね」
「……あ、あぁ……そうだけど」
叱られた子犬の様にジュンの語調は尻すぼみにトーンダウンする。
キツく言われれば誰であろうと尻込みしてしまうというもの――。
「でもなぁ……犯人探しなら、ほら、適任者が居るだろ」
「サンダーは現在、負傷により大天使会を除籍処分中よ」
「――ッ!?」
思いがけないミシェットの状況説明に、ジュンは思わず絶句した。

抜け目のないあの参謀役サンダーが、大天使会からの、――解任?
「……ちょっと待て。除籍って、……奴はしんだのか?」
「解らない。意識不明の重体という報せが入っているわ」
「……マジかよ。……で、どういう状況でそうなった?」
幾許かの声の震えを努めて抑えながら、ジュンは情報を聞き出す。
ホログラム中の小型ミシェットが、美貌を曇りがちにうつむけた。
「何某かのアクシデント、だと聞いているわ。けど――」
「……要は解ンねェって事かよ。しかしそうなると……」
大天使は滅多な事では怪我などしない。自己管理は徹底している。
恐らくは敵襲。しかし、サンダーを追いやる相手とは、一体……?
「私のレーダーが複数の未確認飛行物体を補足してるわ」
「……ッ?」
運転席側で従前沈黙を保っていたコズエが、横から口を差し挟む。
「ユーフォ―とも謂うわね。複数よ。波長が若干違うわ」
「……波長って、お前さ、それ、どんな奴等なンだよ?」
「だから探知レーダーが補足しただけ。目視はしてない」
キュィ――。微かな電子音が鳴った。
低い声音で呟きながら、コズエが紅いネコ眼でジュンを見据える。
「コズエの言う通りよ。はぁ。映像が録れていないのよ」
陰鬱に美貌を曇らせたミシェットが、一つ小さな溜め息を吐いた。
「するってェと、奴さん方は未知の生命体って訳かい?」
ジュンの解答を否定するかの様にコズエが幾つかの可能性を示唆。
「最新式の光学迷彩服か、或いはデジタル記録の改竄か」
「コズエから預かったフライトデータは現在解析中です」
考慮し得る可能性を列挙するコズエ。小型ミシェットが同調する。


