Excalibur



 プァー。ガタン、ガタン――……。
 聴き覚えあるレトロな音調が無人のコンコース内に反響している。
 だだっ広い無機質なコンコースは、異様な不気味さを醸していた。
「……何故、ここだけアナログなんだ?」
 構内のプラットフォームエリア前で、ジュンは途方に暮れていた。
 疲労困憊の背中に、中々起き様としないカミュを負ぶさっている。
『ピ、ガァー。――列車が、マイリマス』
 AIロボと思しきアナウンスが壊れたラジオの様に繰り返される。
「……」
 半ばうんざりしながら、ジュンはあてどなく新幹線の到着を待つ。
 何処へ行くかも解らぬ逃避行。ただ追手から逃れる事を優先した。
『――マモナク到着シマス』
「……」
 AIロボのアナウンスを漫然と聞き流しながら黙然と現着を待つ。
『――マモナク到着シマス』
「……」
 体感、かなりの間、待った気がした。なかなか列車は来なかった。
『――マモナク到着シマス』
「……何時着くんだよ……」
 無人のプラットフォームに消えるぼやき声。苛立ちが募ってゆく。
「……」
 ジオフロント内では、時間の流れという概念がそもそも余りない。
 どれ位待っただろうか。何処にも時計が置いてないので解らない。
「カミュ、今、何時くらいだ?」
「……ぐぅ~……」
 寝息が若干、大きくなった気がした。だが、ただそれだけだった。
「……チッ」
 期待する方がどうかしてる――。自分の愚かさに猛省するジュン。
 ただバーからかなりの距離を踏破した。十分追手は撒いただろう。

『――へイラッシャイ』
 カラン。何故か鈴の音が鳴った。キオスク店内に入る逃亡者二名。
 コンテナハウスの様な内観。近未来的インテリアに眼を奪われる。
『――ナニイタシヤショウ』
「……何言ってンだか解んねーよ」
 スピーカーからの人工音声に対し、つっけんどんに応えるジュン。
 直ぐ手前にカウンター台が設えてある。食事が出来るみたいだが?
『――オリョウリハ?』
「……?」
 ぱっと見、メニューが無い。注文票は愚かタブレットの類もない。 
 カウンター台の向こうは襖で仕切られ、コンベアーが回っている。
「どーやってオーダーを取るんだよ」
『――音声対応システムデス。仰ッテ頂ケレバ』
「じゃあラーメンだ。食えれば何でもいいよ」
『――カシコマリマシタ』
 チーン。乾いた電子音が鳴り、襖の奥からどんぶりが流れてきた。
「……レトルトかよッ!」
 回転コンベアーに乗ったトレー上には、輝けるラーメンどんぶり。
 接近してくるどんぶり容器を前に、ジュンは腹が鳴るのを感じた。
「……」
 思えば激戦続きだった。災難にもめげず、苦難を乗り超えてきた。
 時には、熱々のラーメンを食べるのも悪くはないのかもしれない。