
七色に移り変わるデコライトが室内空間をムーディーに演色する。
予期された揺れもなく、安然たる静謐感に包まれるジオフロント。
「……」
特にやる事もなく、ジュンはただ漫然とベッド脇に腰かけていた。
「……」
直近で起きた諸々を想起してみる。寝てる間に環境破壊が進んだ。
地上を護るべく、熾天使の攻撃?を神霊力を展開して受け止めた。
その時に、本当の自分は神霊力を使い果たし、力尽きた筈だった。
が、カミュが一計を講じた事で、どうやら未来軸が変化した――。
「……」
が、――本当に未来軸が変わった、と いえる確証は何処にもない。
揺れは遅れて来るのかもしれない。別の形で勃発する可能性もある。
そもそも万物を規する因果律の理から易々と逃れ得るとは思えない。
万物を統べる因果律、――『カルマの法則』に反してしまうからだ。
「……」
そもそも――。今回の戦乱の発端たる前提条件が先ず間違っている。
大天使長間の抗争なら世界を巻き込まず自分達で勝手にやるべきだ。
「……だよな」
地表に住まう動植物を根絶、……リセットする必要があるだろうか。
そんな権利があるのか? 神だから? その考え自体が傲慢だろう。
結局、自分の信念が決して間違ってはないという自負だけはあった。
「……」
今回の件なら代表としてミシェットが直接交渉の場に出張ればいい。
或いは代理として側近のサンダーが交渉の場に出てきても問題ない。
ジュンには何時でも協議に応ずる覚悟はある。寧ろそうするべきだ。
「……ぅーむ」
デコライトの彩色の最中、夢見心地に浸りつつジュンは独り言ちる。
自分の賛同者がカミュだけというのも、――どうにも腑に落ちない。

しかし、このままでは特にやるべき事がない。余りにも退屈過ぎる。
真横で寝ている金髪少女の寝顔からは、悩み事がなさそうにみえる。
「気楽でいーよな……コイツは」
思慮深い、というのはこういう時に不便なもので考え過ぎてしまう。
美徳ではあろうが、延々自己憔悴してしまうだけという諸刃の剣だ。
「さて、……どーするか」
呑気に寝息を立てるカミュをぼんやり見ていても問題は解決しない。
今暫くは状況を静観しつつ、変化があれば都度対処で良いだろうか。
「……しかし、暇だな……」
確かに、亜空間内とはいえ、異世界での暮らしは退屈はしなかった。
が、現実ではない。現実に向き合わなければ自分の時間は進まない。
「逃避……し過ぎたか?」
逃げる事が悪いという訳ではない。が、――何時かは戻らなくては。
責任を持ち現実に戻り、向き合い、考え、行動する過程が好ましい。
時は、一生はゆっくりの様で意外にも短い。立ち止まる余裕はない。
「……やる事、特にないな……」
暇だ。――外出? AIロボット相手の一人観光旅行も虚し過ぎる。
魂の宿らないAIは動力で物は動かせても心を動かすには至らない。
心のやり取り或いは自己研鑽無くして魂の成長・成熟はあり得ない。
「……部屋に居ても、なぁ……」
カウンターにはロボバーテンが居るが、AIと話しても意味がない。
隣にはカミュが寝ているが、それだけだ。休ませてやるべきだろう。
眼が覚めたら、また色々とトラブルを連れてくる。そういう少女だ。
今はその時に備え、心身を休める。そういう時間なのかもしれない。
「……」
ギシ……。両手で頭を抱えると、ジュンはベッドに仰向けになった。
明日は、今日よりも少しだけ良くなっている事を、密かに心に願う。
「……」
死生観について黙考する。生まれ、老い、灰になる。抗う術はない。
その過程で各々が役割を担い、務めを果たす。達成率が違うだけだ。
「……」
大天使は教義を万人に伝道するが、人種や地域により違って伝わる。
教義は違えど、各々の拠り所となる信仰心の成長を陰で護り支える。
自分は専ら鈴蘭畑で寝ていただけだが、地上を愉しむ時間もあった。
「……」
総身を巡るじんわりと程よい疲労感を慈しむかの様にして閉瞼する。
瞼に焼きつく、天蓋に映える七色ライトの残像を愉しみながら――。


