Excalibur

 フィィィ――……。疾駆する電動タクシーのボディが紅く煌めく。
 振動一つないリニアの様な疾走感が心地よさを提供する室内空間。
「……」
 逃避行の道中ふと、ジュンの胸中にとある疑問が浮かび上がった。
「あのさ……お前さぁ、以前、脳にICチップが何たらとか……」
「んー? あーアレぇ?」
 運転席の少女が、大きな青い眼で、キョロっとジュンを垣間見る。
「あんなの嘘に決まってンじゃんバーカっ。あの技術は廃れたの」
「……だろうな。危険極まる科学の暴走って感じだったから……」
 無難に口調を合わせるジュン。まぁ薄々解ってはいたのだが――。
 水銀が医療に使われていた古代から誤解がまかり通るのが世の常。
「運用不可な科学技術を、利権の為に稼働しようとするから……」
「まーねー。でも資本主義社会ってさ、まーそんなモンっしょ?」
 今の政治経済は、国政より営利目的の個人資産家が寡占している。
 現経済体制を確立させたマルクス経済学が齎した弊害ともいえる。
「これ以上、営利を追求するがままに自然環境破壊が進めば……」
「だからアイツ等が怒って人類に神の鉄槌下したンだろーけどさ」
「……俺が余計な邪魔して……巻き添え喰らって堕天した……と」
 ポリシーに従ったまでの行動の結果だ。今更、後悔はしていない。
 が、自分の身勝手が連中の怒りを買ったとしたなら……謝りたい。
「だからジェラルドがさ。ぁんたの事バカだつってたンでしょ?」
「あぁ……虫唾が奔る……お人好し……とも……」
「他人の意見は気にしなくていーよ。それが長所でもある訳だし」
「……え? ……ありがとう……」
 カミュのフォローは有難いが、……何か引っ掛かる。裏がないか?
 これだけ自分に追従してくれるその裏に何か思惑はないだろうか。
 そもそも何故カミュが自分を助ける? 敵対していたハズだ――。
「…………ぅッ」
 駄目だ――。熟慮する程に深みにハマる気がして、思考を止めた。
 少なくとも今のカミュは、自分の助力をしてくれる心強い味方だ。
「ッ? そうだ……なぁ、カミュ」
「んー?」
 ジオフロントを稼働している自律型AIに関しても言及してみる。
 カミュへの陰鬱な疑念を払拭してしまいたいという焦りもあった。
「こいつらってさ、……お前が神霊力で動かしているのか……?」
「まぁね。こないだ見せたプラント内に、沢山蓄電しといたから」
「蓄電? あぁ……霊子炉、の事……か」
 霊子炉――……。霊子力を備蓄出来る炉の発案者はミシェットだ。
 これの実用化に依り、天界での恒久的な日常生活が可能となった。
「そもそも、俺らに原子力など無用の長物でしかないからな……」
「地上の経済活動もさ、太陽の熱エネルギーで十分だと思うよね」
「まぁ……実用化が可能なら……環境にはとても優しいよな……」
 フィィィ――……。(ビークルの駆動音)。
 夕陽掛かった窓越しに、円筒形のプラント群が遠景に垣間見える。
 あの霊子炉に、恐らくカミュは己の神霊力を注ぎ込んだのだろう。
「アレが原子力発電施設ってゆーのも、やっぱ嘘だったのか……」
「あんなの環境破壊の基だからね。ここにあるのは蓄電池だよ?」
 至って平然と応えるカミュ。嘘をついている素振りは微塵もない。
 蓄電池なら運用も廃棄も安全性は高く尚且つ自然環境にも優しい。
「……お前、意外と先見の明あるよな……」
「だから一言余計だつーのっ! ばーかっ」
 黄昏時の車内。ジュンの揶揄にむくれたカミュが頬を膨らませる。