キュゥゥゥ――……ン。
電子の駆動音を奏でながら、小型の二人乗りタクシーが停車する。
「さぁ乗って!」
「……あぁ……」
ガチャ、バタムッ――。
乗り込むや否やドアが閉まる。音も立てずに滑らかに走り出した。
「行き先は、――モンサンミッシェル大聖堂!」
『……アクセプト』
明るい注文に、ヴイチューバ―の様な無機質な音声が車内に響く。
「……は?」
「あんたじゃない! ミッシェルに言ってんのっ!」
「……あぁ、だっけな……」
ちょっと懐かしいやり取りに、ジュンは苦笑いを浮かべてしまう。
「しかし、……サンダーが相手となると……」
言葉尻を濁すジュン。同郷だからこそ解る。彼の霊智力は本物だ。
更に彼の裏には、バベルを居城とする盟友ミシェットが居るハズ。
「……ミシェット、か……」
ギシ……。座席に凭れ、閉瞼するジュン。懐かしい光景が蘇った。
◇
夕暮れ時の鈴蘭畑に居た。馴染み深い美声がする。
「地上への出向が決まったの」
「……何時……?」
「明日。バベルの塔での監視役よ」
「へぇ……君には似合いだな……」
「ありがと。書斎に招待するわね」
「ぅーん。寝てしまいそうだ……」
「貴方は何時も寝てるじゃないの」
ザザァ――……。
そよ風が心地よい。清涼で澄んだ天界の音色――。
「地球創世からの歴史を辿る旅か……悪くはないな」
「未来カレンダーも管理しなきゃ。忙しくなりそう」
「……カルマの調節も兼ねて、……だっけな……?」
「反乱分子の早期発見、早期処分も大事だからねぇ」
「……処分、……か。どうなんだろうな、それ……」
読書好きで万物の叡智を極めんとする時の管理者。
運命を乱す者を反乱分子と称して断罪する堅物だ。
◇
フィィィ――……。
電動タクシーが速度を上げた。目的地のエリアまでオートで奔る。
「カミュ。一応感謝はしているが、お前も、また余計な事を……」
「ぁたしはいーの。ぁんたが無事でいてくれればもー充分だよ?」
ジト目でジュンを睨みつけてはいるが、その口元は微笑っている。
「史実じゃ、お前が俺を討ち取った事にされてるンだけどな……」
「改竄でしょ? そーゆー事にしといた方が都合いーんだろーね」
AIタクシー内での会話もあまり弾まない。自ずとトーンも沈む。
「俺のせいでお前まで……本当申し訳ない」
「だからいーって。女々しいの嫌いだよ?」
「……あぁ……だな……」
ミカエルことカミュは元々癒しの存在であり、正義を司る熾天使。
歪曲を嫌い、虚偽や欺瞞を許容できない性格は昔から変わらない。
「ぁんたの背負った……傲慢だっけ? 贖罪はね、冤罪なンだよ」
「……そう、かな……?」
過ちを犯すのが人の常ならば、それを糺す。……その責務がある。
歯切れ悪い返事をしつつ、自分の信念が揺らいでいるのを感じた。
「だからさぁ、それを証明する戦いなンだよ? しっかりしなよ」
「……あぁ、……だよな」
曖昧な返事に終始するジュン。少女の好意は有難いが気が滅入る。
『間モナク、サンマロ湾に到着シマス。ゴジュンビハ……』
AIタクシーの音声も、心なしか落ち込んでいるかの様に感じる。
「……でさ、ディープインパクトまでの時間は……?」
「ぅん。間もなくじゃない? 揺れるから注意してね」
「……あ、そ……」
あっけらかんとしたカミュの返事には、緊迫感が微塵も窺えない。
光属性の為、相克による神霊力の影響を余り受けないからだろう。
「さぁーって。モンサンミッシェル大聖堂に逃げ込むよぉーっ♪」
「……戦略的、……撤退……」
快活な少女の横では、気落ちする自分がバカの様に思えてしまう。
電子の駆動音を奏でながら、小型の二人乗りタクシーが停車する。
「さぁ乗って!」
「……あぁ……」
ガチャ、バタムッ――。
乗り込むや否やドアが閉まる。音も立てずに滑らかに走り出した。
「行き先は、――モンサンミッシェル大聖堂!」
『……アクセプト』
明るい注文に、ヴイチューバ―の様な無機質な音声が車内に響く。
「……は?」
「あんたじゃない! ミッシェルに言ってんのっ!」
「……あぁ、だっけな……」
ちょっと懐かしいやり取りに、ジュンは苦笑いを浮かべてしまう。
「しかし、……サンダーが相手となると……」
言葉尻を濁すジュン。同郷だからこそ解る。彼の霊智力は本物だ。
更に彼の裏には、バベルを居城とする盟友ミシェットが居るハズ。
「……ミシェット、か……」
ギシ……。座席に凭れ、閉瞼するジュン。懐かしい光景が蘇った。
◇
夕暮れ時の鈴蘭畑に居た。馴染み深い美声がする。
「地上への出向が決まったの」
「……何時……?」
「明日。バベルの塔での監視役よ」
「へぇ……君には似合いだな……」
「ありがと。書斎に招待するわね」
「ぅーん。寝てしまいそうだ……」
「貴方は何時も寝てるじゃないの」
ザザァ――……。
そよ風が心地よい。清涼で澄んだ天界の音色――。
「地球創世からの歴史を辿る旅か……悪くはないな」
「未来カレンダーも管理しなきゃ。忙しくなりそう」
「……カルマの調節も兼ねて、……だっけな……?」
「反乱分子の早期発見、早期処分も大事だからねぇ」
「……処分、……か。どうなんだろうな、それ……」
読書好きで万物の叡智を極めんとする時の管理者。
運命を乱す者を反乱分子と称して断罪する堅物だ。
◇
フィィィ――……。
電動タクシーが速度を上げた。目的地のエリアまでオートで奔る。
「カミュ。一応感謝はしているが、お前も、また余計な事を……」
「ぁたしはいーの。ぁんたが無事でいてくれればもー充分だよ?」
ジト目でジュンを睨みつけてはいるが、その口元は微笑っている。
「史実じゃ、お前が俺を討ち取った事にされてるンだけどな……」
「改竄でしょ? そーゆー事にしといた方が都合いーんだろーね」
AIタクシー内での会話もあまり弾まない。自ずとトーンも沈む。
「俺のせいでお前まで……本当申し訳ない」
「だからいーって。女々しいの嫌いだよ?」
「……あぁ……だな……」
ミカエルことカミュは元々癒しの存在であり、正義を司る熾天使。
歪曲を嫌い、虚偽や欺瞞を許容できない性格は昔から変わらない。
「ぁんたの背負った……傲慢だっけ? 贖罪はね、冤罪なンだよ」
「……そう、かな……?」
過ちを犯すのが人の常ならば、それを糺す。……その責務がある。
歯切れ悪い返事をしつつ、自分の信念が揺らいでいるのを感じた。
「だからさぁ、それを証明する戦いなンだよ? しっかりしなよ」
「……あぁ、……だよな」
曖昧な返事に終始するジュン。少女の好意は有難いが気が滅入る。
『間モナク、サンマロ湾に到着シマス。ゴジュンビハ……』
AIタクシーの音声も、心なしか落ち込んでいるかの様に感じる。
「……でさ、ディープインパクトまでの時間は……?」
「ぅん。間もなくじゃない? 揺れるから注意してね」
「……あ、そ……」
あっけらかんとしたカミュの返事には、緊迫感が微塵も窺えない。
光属性の為、相克による神霊力の影響を余り受けないからだろう。
「さぁーって。モンサンミッシェル大聖堂に逃げ込むよぉーっ♪」
「……戦略的、……撤退……」
快活な少女の横では、気落ちする自分がバカの様に思えてしまう。


